第23話 盗賊ギルド
「父上失礼します!!」
手紙を読んだ俺は即座に父の元へとむかっていた。ナナシは問題なく依頼をこなしていた。なのになんで窮地におちいっているんだ? 盗賊ギルドの仲の良い父ならば何か知ってるかと思ったのだ。
ノックしたあと返事もを待たずに扉をあけるといつものような光景が待っていた。父が外套を羽織った身軽で露出が高めの女性とディープキスをしていたのである。
この人いつ仕事をしているんだよぉぉぉぉぉぉ!!
「グレイブ……!!」
「あらあら息子さんに見られちゃったわね」
驚きの声をあげる父と反対に楽しそうにクスリと笑う彼女はもちろん巨乳である。そして、その恰好に俺は見覚えがあった。
「あなたは盗賊ギルドの方ですね……もしかして、ナナシの件と関係があるのでしょうか?」
「うふふ、勘のいい子ね、嫌いじゃないわよ」
妖艶に笑う彼女の名前はデネブ。盗賊ギルドの一員どころか、長である。そして、ゲームでは主人公とたちと邪神側の両方に情報を受け渡していた人物である。
常に笑顔を浮かべており油断ならない人物とその年齢不詳の容姿からネットでは『美魔女』などと呼ばれていた。そして例によって胸がでかい。
だけど、キャラ設定だと四十歳以上なんだよな……
大人の色香を醸し出している彼女だが、その肌の艶やはりはどう見ても二十代前半にしか……
「坊や。女性の歳を探るのは良くないわよ」
「すいませんでしたぁぁぁぁぁ」
ほほえんでいるというのに圧倒的なプレッシャーを放つデネブに頭を下げることしかできなった。
こわっ!! 思考を読めるのかよ。無残様かな? 冷や汗が止まらないんだけど。
「それで、グレイブよ、慌てていたようだが何か話があったのではないか?」
「それはその……」
ナナシの件で来たのだが、デネブの存在に言いよどむ。ナナシがなぜ俺に助けを求めたのかわからないが、この人が関係している可能性が高いからだ。
クスリとデネブは笑うと、全てを見透かすような目で俺を見つめる。
「ナナシの件でしょう? 彼女には別の盗賊ギルドに出向してもらうことにしたわ」
「え……ナナシは俺の依頼をちゃんと受けてくれましたよ。なんでそんなことになったんですか!?」
出向……ようはリストラのようなものだろう。だが、その理由がわからない。彼女はキチークが邪教崇拝をしていることすらも突き止める手伝いをしたのだ。褒めらるならばわかるが咎められる筋合いはないはずである。
「なんで……か、テュポーンという名前に聞き覚えはあるでしょう?」
「はい、もちろんです」
忘れるはずもない俺の命をねらうとかほざいた邪神の名前である。だが、彼女はなぜその名前を知っている?
何があるかわからないので、あの場にいた人間には口止めをしておいたのだが……
「うふふ、盗賊ギルドをなめないでほしいわね。ナナシから聞くまでもなく邪神ティポーンの動きは察知していたわ」
「ああ、我らが王は何人か邪教の幹部を倒すことにも成功している。ちなみにキチークの件も予想はしていたのだよ」
デネブの言葉を父が補足する。邪教を禁じるくらいなのだ、王もその存在には気づいていたのだろう。そして、今のデネブが邪教の仲間ではないとほっと一息つく。
だけど、それならなんでナナシを追い出すような真似を?
「テュポーンとの戦いは今が正念場なのよ。それなのに、うかつにも邪神に目をつけられた盗賊を雇っているほど私たちに余裕はないの。だから、ハレゼ国にいってもらうことにしたわ。もちろん、ナナシも納得済みよ」
「な、外国じゃないですか!!」
これはまずいぞ……地方貴族にすぎない俺が海外に行くのはいろいろと複雑な手続きが必要だ。このままではナナシに……あのおっぱいに会えなくなってしまう!!
「待ってください。テュポーンが恐ろしいというのならば、俺がナナシを守ります。足抜けの金が必要というのならば、キチークを捕らえたときの報奨金があります。だから、俺にナナシをください!!」
「へぇー、あなたはナナシを随分と高く買っているのね」
「あたりまえです。彼女(のおっぱい)は俺がずっと欲していた人材なんです。悪いようにはしません。だからお願いします」
これは本心だ。エロゲーの世界とは言えナナシクラスの爆乳はあまりいない。しかも、彼女は俺に好意的なのである。
「へぇーちゃんと頭を下げられるのね……」
デネブがなぜか嬉しそうに笑う。
「おもしろいわ。あなたはたかが盗賊一人のために、お金と貴族のプライドすらもすてることをよしとしているのね。その心意気気に入ったわ。ナナシがほしいというのならお金はいらない。だけど、条件をつけさせてもらうわ」
「条件……ですか?」
怪訝な顔をする俺にデネブがメモを渡す。中身は隣町の地図のようだ。とある建物に一つ星マークで印がはいっている。
「ナナシは今、盗賊ギルドの管轄の宿屋にいる。そこを守っている連中を誰も殺さずに、連れ出してみなさい。邪教からあの子を守る力があるのなら、その程度は楽勝よね」
「はい、もちろんです!! 父上、馬車をお借りします」
どんな無理難題かと思いきや思ったよりもパワープレイでいけそうだ。ゲームでは盗賊ギルドには厄介な敵はいなかった。それに引き換え、こちらには強力な魔法の使い手であるドロシーと、圧倒的な身体能力を持つベロニカがいる。
このままナナシに恩を着せて好感度をあげて、仲間にすれば戦力もおっぱいもゲットだぜ!! エッチはダメでも、おっぱい枕くらいはしてくれるんじゃないだろうか?
俺はワクワクしながら急いで盗賊ギルトへと向かうのだった。この時の俺は浮かれて忘れていたのだ。今が五年前だということを……そして、この年に盗賊ギルドで大きな事件がおきて、一人の少女が邪教に身を落とした事件があったことを……
★★
急いで部屋をあとにするグレイブを見てデネブはそれまでの偽りの笑顔ではなく、思わず本心から笑みをこぼす。
「ブラッド……あなたの息子は立派に育ったわね」
「私は何もしていないさ……あいつが勝手に育っただけだ。むしろ私は育て方を失敗したと嘆いていたくらいだ……」
デネブの言葉にグレイブの父ブラッド=アンダーテイカーは自虐的な笑みを浮かべる。仕事が忙しかった。妻が死んで、ショックだった。言い訳ならいくつでも思いつくが、幼少からの幼馴染である目の前の彼女にだけはごまかしたくなかった。
「そう……だけど、あの子ならばあなたの……悪に紛れて正義を成す悪役貴族を継ぐことができると思うわよ」
悪役貴族……それはブラッドのことをさし、一般的にはまるで演劇の悪役のようなひどい貴族だと言われている。だが、その本来の意味は違う。王自らアンダーテイカー家に頼み、誰よりも正義の心を持ちながらも情報を得るために悪役を演じているだけに過ぎない。
もちろん、巷に広がっている悪い噂のほとんどは、目の前のデネブが盗賊ギルドのネットワークを使い広めた嘘の情報である。
全ては悪役を演じて邪神の情報を得るために悪だと思わせるための作戦にすぎない。
「お前がそこまで言うとは……随分とグレイブを買っているんだな」
「ええ、力がある人はたくさんいる。知恵がある人もたくさんいる。優しい人もいるわ。だけどそれを全て兼ね備えている人間はなかなかいないもの。彼はその知恵にて強力な魔力を持ちながらも、病に侵されていたドロシーを救ったわ。その力にて邪神すらも撃退した。そして、彼はナナシがハレゼ国にいくと知ったら迷いなくプライドとお金を捨ててでもあの子を欲しいと言ったのよ。その意味がわかるかしら?」
デネブは嬉しそうにブラッドに微笑みかける。こんな風に本心から笑う彼女の見るのは何年ぶりだろうかと……少し懐かしく思いながら彼は答える。
「ハレゼは戦争の多い地域だったな。そして、そこでの盗賊ギルドの依頼はほとんどが暗殺などの荒事だ。デネブよ。グレイブを試したな」
「当たり前でしょう? 私の最高傑作にて愛娘を託すのよ。大事にしてもらわないと困るもの。だけど、彼は合格ね。『殺さない暗殺者』なんて言われているナナシがハレゼ国に行くと言ったら顔色を変えて助けてようとしてくれたもの。これなら安心してあの子を託せるわ」
デネブはグレイブの反応を思い出して嬉しい気持ちになる。ナナシはデネブが才能を見出して、育てていきた盗賊の中でも最も優秀な少女だ。調子に乗らないように「あなたは中の中よ」などといいきかせているものの見るものが見れば、その加護の有能さと、実力の高さはわかるだろう。
そして、それをグレイブは見抜いたのだろう。周りに囲っているのは一見美少女ばかりでありハーレムを作ろうとしているクソ貴族のように見えるが、実態は違う。
天才魔法使いであるドロシーに、アテナ騎士団の中でも最上位の実力を持つ『逆転の騎士』とよばれるベロニカを仲間にしているのだ。そこにナナシが加われば彼の周りには王国でも最上位の人間ばかりがそろいその影響力は大きいものになる。
「グレイブ=アンダーテイカー……想像以上ね、もしかしたら彼がテュポーンを倒す英雄になるかもしれないわ」
「それはさすがに時期尚早だろう。珍しく浮かれているな。デネブよ」
「そりゃあそうよ、長年待っていた人材かもしれないんですもの。それよりも……」
デネブは妖艶に唇をなぞりながらからかうようにブラッドに笑いかける。
「随分と生意気な口を利くようになったわね。私で童貞を捨てたくせに……」
「なっ……何十年前の話をしている!! だいたいあれはお前が何も知らない私を……」
からかうような言葉に動揺するブラッド。なにはともあれ、グレイブのいないところで彼の評価は上がっていくのだった。それこそ、まるで主人公の様に……
お父さんの名前と以外な過去が今、明らかに……
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