せっかく悪役領主に転生したので、ハーレム作って好き勝手生きることにした~なのに、なぜかシナリオぶっ壊してたらしく、主人公よりもヒロインたちに慕われ世界を救っていたんだが……

高野 ケイ

第1話 転生したらエロゲの悪役領主でした

「くっそ……リア充どもめ……」



 クリスマスの夜の街にあふれるカップルたちを俺はコンビニ袋を片手に恨めしそうにみていた。みんな幸せそうな顔しやがって……

 そう……純度100%の嫉妬である。



「だれだよ……大学生になったら彼女ができるっていったやつはさ……」


 

 中学高校と、女性との縁に恵まれず、彼女ができることはなかった。大学になればとサークルに入ったが女子に相手をされることはなくそのうち足は遠のいていった。



 あいつらこれから、イチャイチャするんだろうなぁ……俺だって女の子とデートしたし、あわよくばおっぱい揉みたいよぉ……


 

 エロゲやエッチな動画でしかみたことのない世界にあこがれを描きながら夜道を歩いていた時だった。目の前の信号を女子高生がわたっているというのに、居眠り運転なのか、スピードをまったく落とさずに走ってくる。



「おい、あんた!!」

「え……?」



 俺の声を聞いて車に気づいた少女は大きく目を見開いて、歩みを止めてしまう。それは咄嗟の行動だった。



「うおおおおおお!!」



 俺は叫び声をあげて少女を突き飛ばし……鈍い音と共に全身に激痛が走る。らしくもないことをしたことを後悔する間もなく俺は確信する。



 ああ、これは死んだな……



 そんな俺が暗転していく意識のなかで最後に思ったのは、助けようとした少女は無事だろうか? などと高尚なことでもなく、走馬灯でもなく、たった一つだった。



 ああ、一回でいいから彼女がほしかったな……そして、エッチなこともしてみたかった……俺だってチャンスがあれば頑張れたはずなんだよ……



『それならば、人助けをした君にチャンスをあげよう。ここなら、君でも頑張りしだいでなんとかなるんじゃないかな?』



 耳元でどこか神秘的な女性の声が聞こえたのはきっと気のせいだったのだろう。






「うおおおおおお!!」



 俺が思わず大声をあげると、体をおこしたが、違和感を覚える。なぜだか痛みは一切感じないうえに、見慣れない真っ白な壁に、豪華な家具、そして、やたらとふわふわなベッドに眠っているのだ。



「なんだよ、これは……それにここはどこだ?」



 俺は確か車にひかれたはず……それなのにここは病院とは思えない。まるでエロゲとかでも見た貴族の屋敷のような……そんな事を思いながらあたりをみまわすと鏡に映った自分の顔が視界に入る。



「だれだこいつ……いや、見覚えがあるような……」



 ベッドからおりて鏡の前に行くとそこにうつった姿がより鮮明にわかる。小麦のように美しい金色の髪に、端正な顔立ち、そしてすっかり癖になっている皮肉気に歪んだ笑み……



「これ……俺のやっているエロゲ『爆乳ファンタジー』の悪役領主のグレイブじゃん!!」



 鏡を前に思わず俺は大声をあげてしまった。それも無理はないだろう。自分の顔がゲームのキャラになっているのだ。しかも、ヒロインの一人をハーレムに加えようとした結果、主人公の仲間に殺される愚かな敵役なのである。



 それを認識したからグレイブの記憶がどばーーっと入ってくる。



 今の俺は十五歳で、ゲーム開始の五年前であること。


 野犬に石を投げたら追いかけまわされて、逃げてる最中にずっこけて頭を打ってきぜつしていたこと。


 メインヒロインの一人である義妹とはろくに会話もないこと。

 

 グレイブは我儘で傲慢な性格をしているため使用人たちからもおそれられていること。



 そのほかにもこの世界の常識やゲームではわからなかった細かいことが色々と補填されていき、今の自分に違和感を感じることがなくなっていく。

 今の俺は前の世界の人格とグレイブが完全に同化したのだ。



「くっくっく、ふはははは、俺は異世界転生したというのか!! 神よ、感謝する!!」



 ラノベにありがちな神様との対話やチートスキルなんぞなかったが、それでも俺は十分だった、だって、グレイブはただの悪役貴族ではない、エロゲの悪役貴族なのだ。

 この男は金と権力に物を言わせて好き勝手やったあげくハーレムを作っているのだ。つまり……



「俺はこのままいけば童貞を卒業することができるんだ!! どうせ悪役に転生したんだ。ならば俺は主人公たちには関わらず悪役として生きるとするぞ!!」



 前世では真面目に生きていてもろくに評価なんてされなかった。女の子は陽キャに持っていかれるし、ろくに相手だってされなかった。

 だったら、今度は好き勝手に生きようと思う。幸いにも俺にはゲーム知識があるのだ。今ならば前世で夢見た俺好みの巨乳な女の子を集めた巨乳ハーレムだって作れるかもしれない。



「だけど、一つだけ問題があるんだよなぁ……グレイブはろくな加護もない最弱キャラなんだよな……」



 そう……このグレイブという貴族は序盤の敵なだけあってステータスは低い上に特殊能力もないため、この国を裏切る見返りに邪神テュポーンから加護をもらい『洗脳』というスキルを手にするのだ。

 ようするに父からもらった権力や、金、洗脳スキルによって偉そうにしていた情けない男なのである。念のために頭の中で念じてみると、ステータスが出てくる。


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グレイブ=アンダーテイカー


☆職業 


アンダーテイカー家の長男


☆加護


〇〇〇〇〇〇の加護( いまだ覚醒していないがとある条件によって目覚める)


スキル


鍛冶LV1

剣術LV2


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「は……?」



 何者かの加護だと……

 ステータスに書いてある俺は信じられない文字に思わず間の抜けた声をあげてしまった。加護とは神から強力な力を得ることができる力だ。なんらかのリスクがある場合もあるが、基本的には強力なスキルに目覚めるのだ。

 そして、加護は一人の神からしか授かることはできず、他の神から加護を得ると上書きされるのである。



「まさか、グレイブには本来は何かの加護があったが、ゲームでは目覚めなかったというのか……?」

「グレイブ様失礼します」



 予想外の結果に俺が混乱しているとメイドらしき女性の声と共にコンコンとノック音が響く。やっべえ、誰か来る。いきなりの来訪者にどうすべきか深呼吸して考える。とりあえずはあまり違和感を覚えられないように普通に対応しようじゃないか。



「……入っていいぞ」

「はい、失礼いたします。お茶をお持ちいたしました」



 扉の方からレースのあしらわれたメイド姿が見える。なるべくイケメンっぽく、余裕のある仕草でもしていようなどと考えられていたのは彼女の姿をちゃんと見るまでだった。

 だって、彼女は……



「おっぱい、でっか!!??」

「きゃぁ」



 そう、おっぱいがでかかったのである。メイド服からあふれんばかりの胸がうごくたびにブルンブルンと揺れるのが何とも目の毒である。 

 まるでスイカのようなおっぱいを持つ彼女は黒い髪にショートカットの可愛らしい少女だった。そして、まるでスイカのようなおっぱいだ。( 大事なことだから二回言いました)



 このおっぱいでメイドは無理ですよ!! 巨乳ではなくもはやこれはもはや爆乳である。



 そして、そんな彼女は俺の大声に驚いて、みじろぎしたためおっぱいはぶるんと揺れ、手に持ったトレーから紅茶の入ったカップが落ちてしまう


 ガチャン



 とカップが割れる音が響いて、破片と紅茶が床に飛び散った。



「あ……申し訳ありません、グレイブ様、すぐに片づけますから……」

「待った!!」



 顔を真っ青にし、あわててしゃがんでカップの破片を拾おうとするメイドを制止する。そして、びくりと俺を見つめる彼女に、これまでグレイブがどれだけひどいことをしてきたかがわかり、安心させるように微笑んだ。



「驚かせて悪かったな。ここは俺がやるから代わりのお茶を持ってきてくれるか?」

「そんな……私が……こぼしてしまったのに……」

「いいんだよ、そもそも原因は俺が大声を出したことだしな」



 俺は必死に胸元に視線を送らないように意識しながら、優しく答える。女の子は胸元を見ていると気づくというからね。


 すでにお気づきだとは思うが、俺は彼女をハーレムの一員にすべく優しくすることにしたのだ。だって、こんなおっぱいエロゲの世界でもめったにいないって。


 というわけで、彼女の好感度をあげることにしたのである。普段のグレイブならば、今の失態を理由に無理やり迫ってもおかしくはないがそれではだめだ。

 脱童貞はいちゃらぶセックスがいい。



「グレイブ様……何か変わられましたね……」

「ああ……今回ケガをして、助けられて自分の愚かさに気づいたんだ。そして、俺がみんなにささえられているってことにもな。だから俺は変わろうと思うんだよ」

「グレイブ様……」



 自分でも何を言っているかよくわからんが、おっぱいメイドちゃんが感極まったというように目をうるわしている。

 まあ、普段はわがままで理不尽なことを言っていた相手が急に優しくなったのだ。細かい理由はあまりきにならないのかもしれない。

 やってることはDV彼氏と同じだが効果はあったようだ。

 


「わかりました。このナルヴィ、幼少の時から、グレイブ様を見てきましたが、昔の時のような優しさを必ずや取り戻してくれると思っておりました。私にできる事が何かあったら言ってくださいね!!」

「あ、ああ……ありがとう」



 感動したとばかりに両手を握られて、俺の胸はどきどきである。そして、メイドの胸はブルンブルンである。


 こんなん好きになっちゃうよ……



 童貞の俺には笑顔で手を握るというスキンシップは強力すぎる!!



「では、さっそく新しいお茶を持っていきますね。その……ドロシー様にも昔の様にやさしくしていただけたら嬉しいです!!」



 そう言って去っていく彼女の背中を見つめながら俺は一つのことを思い出して、顔を真っ青にしていた。



「まてよ、ドロシーに、ナルヴィ……だと……?」



 おっぱいしか見てなかったが、ナルヴィはヒロインの一人であり、グレイブを殺すことになる義理の妹であるドロシーの専属メイドなのである。そりゃあ、ヒロインの一人だもん。おっぱいでかいわけだわ。思わず親切にしてしまったがこれくらいならシナリオに影響はないよな……?


 

 さっそく計画が変わっていくことに俺は頭を抱えるのだった。自業自得だって? あのおっぱいだもん仕方ないだろ!!

 とりあえず、好き勝手生きていくためには、何かイレギュラーがおきても対処できるよう力をつける必要があるだろう。それにはまずは領主である父に話を通す必要がある。



「だけどさ……グレイブの親父は残虐非道な悪役領主って呼ばれてるんだよな……」



 さすがに息子には優しいよな……とちょっと不安になりながらも父の部屋へと向かうのだった。


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