20. 怒りのシャッター

「証明? 何? 川崎の街を吹っ飛ばして見せたら納得するわけ?」


 シアンは邪悪さのにじむ笑みを浮かべながらスマホを見せつけ、ぶわっと黄金色の輝きを纏わせた。


「ス、スマホがどうしたって言うのよ!」


 副長はその明らかに様子のおかしいスマホに気おされながらも、気丈に言い張った。


「これで写真撮っちゃおうかなって。くふふふ……」


「写真……?」


 絶好調になったシアンは、キラキラとした瞳で人差し指をシャッターボタンに狙いを定める。


「火の海になった川崎の写真をね!」


「ちょっと待ったー!」


 瑛士は慌ててシアンの腕をつかんだ。


「何よ? あの子が見せろって言ったのよ?」


 シアンはつまらなそうにアゴで副長を指す。


「本当に見せなくていいから! 冷静になってよ!」


「そうそう、二人とも落ち着いて。こんなところで騒ぎを起こしたらすぐにAI政府ドミニオンに見つかってしまうよ」


 リーダーも慌てて副長を諫める。


 副長はピクピクとほほを引きつらせながらシアンをにらみ、シアンも汚らわしいものを見るように副長をにらんだ。


「どうやって倒すかなんて僕らは知らなくていい。僕らは何も見なかったし知らなかった。彼らが上手くやってくれたらそれでいいし、失敗しても関知しない。そう決めたろ?」


 リーダーは副長に向かって説得する。


「そうね! せいぜい成功を祈ってるわ」


 副長は吐き捨てるようにそう言うと橋の裏の鉄骨に手をかけ、ヒョイっと跳び乗るとまるで猿のように器用に川崎側へと渡っていった。


 リーダーはふぅとため息をつくと申し訳なさそうに頭を下げる。


「彼女としてはAI政府ドミニオンに対して思うところはあるんだけど、レジスタンスに対する不信があるようでね。申し訳ない」


「いやまぁ、確かにクォンタムタワーを倒すなんて、僕自身夢みたいと感じる部分はあるので仕方ないと思います。でも、彼女ならやってくれると思います」


 瑛士はチラッとシアンを見る。


「僕壊すのだぁい好き。ぐふふふ」


 シアンは邪悪な笑みを浮かべ、楽しそうに笑う。


「そ、そうなんだ……」


 リーダーは不安そうに眉をひそめた。



.........................................................................................................................



 一行は橋の下をアスレチックジムのようにぶら下がったり、ジャンプしたりしながら多摩川を渡っていった。


 渡り終えた一行は辺りを確認しながら武骨な大型のSUVに乗り込む。AIが造り、提供してくるこの電気自動車は、デザインを無視した機能性重視の作りとなっており、シートも簡素なプラスチック製で乗り心地も悪い。ただ、一切故障しないのでみんな文句は言いつつも重宝していた。


 瑛士とシアンはAIに見つからないように後部座席でブルーシートをかぶって床に座る。


 リーダーがアクセルを踏むと、キュィィィィンという高周波を発しながらSUVは土手道を力強く登って行った。


「ちょっと窮屈で申し訳ないが、AI政府ドミニオンに見つかってしまったら僕らは極刑だ。その辺、理解して欲しい」


 リーダーはハンドルを回しながら辺りをチェックしつつ弁解する。


「大丈夫です。迷惑はかけたくないですし」


 瑛士はアクアラインまで乗せていってもらえるのだから我慢は仕方ない、と思っていたが……。


「あー、なんか息が詰まりそう。僕そんな長く我慢できないゾ?」


 シアンがブルーシートを中からパンパン叩き、まるで子供のように駄々をこねる。


「あんたねぇ、いい加減にしなさいよ? あたしら命懸けであんた達運んであげてんのよ? 我慢しなさい!」


 助手席の副長は後ろをにらみながら、青筋たてて怒鳴った。


 シアンはピクッとほほを引きつらせると無言でスマホを出し、ブルーシートの中で電源を入れる。


「シアン、ダメだってば! 大人しくして無いと!」


 あわてて瑛士がスマホをつかみ、制止しようとするが、シアンはものすごい力で引っ張って瑛士を引き倒す。


 あわわわ!


 瑛士はシアンの上に覆いかぶさるように倒れた。柔らかく弾力のあるシアンの身体に思わず赤面する瑛士。


「エッチー! 襲われるぅ! きゃははは!」


 シアンは目を白黒させる瑛士を見ながら楽しそうに笑った。


「静かにしろって言ってんでしょ!!」


 副長は容赦なく怒鳴りつける。


 あぁ?


 シアンは露骨につまらなそうな表情をすると、スマホを瑛士からひったくった。


 あっ……。


 瑛士はマズいと思いながらもその迫力に気おされてしまう。


 碧い瞳をギラリと光らせたシアンは、すっとブルーシートの隙間からスマホを出し、シャッターを切った。



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