第34話 共闘


 夜のとばりが降りた頃。


 リリーナは(魔力の消耗もあって)熟睡中。

 誘拐された獣人の子供たちも、最初の警戒が嘘のようにリリーナに懐き、今ではリリーナの両側で寝息を立てている。


 最初はリリーナが安全のために結界を展開しながら眠ろうとしたのだが、魔力の回復を優先させるために止めさせた。


 つまり、今洞窟の出入り口には警報の魔術くらいしか施されていない。


 もちろんミアの護衛騎士や伯爵家の騎士たちが交替で見張りに立っているのだが――


「――あら、」


 ぬくっと起き上がったミアがそんな声を上げ、


≪ほぅ、気づきましたか。さすが、中々の腕前で≫


 メイド姿のアズが素直に褒め称えた。いや、彼女の口ぶりだとどこか皮肉めいて聞こえてしまうのだが。


 ともかく、今重要なのは洞窟の外から感じられる『殺気』である。


「山賊の残党でしょうか?」


≪……探知完了。山賊にしては手練れ過ぎますね。おそらくは別勢力でしょう≫


「…………」


 寝息を立てるリリーナと獣人の子供たちをちらりと見るミア。


「疲れて眠っているのですから、起こすわけにはいきませんわよね」


 リリーナは魔力の消耗で。子供たちは誘拐されていたことによる体力精神力の消耗が原因で。泥のように眠っている三人を、夜中にたたき起こすのは気が引ける。


 当然のようにミアが立ち上がり、彼女の心意気に感応したようにアズが聖剣の姿となる。


≪何という心意気。ここは私も協力いたしましょう≫


 リリーナが消耗した原因の九分九厘はアズなのだが。悪気など微塵も感じさせない口調のアズであった。


「……ならば、しばしの共闘と参りましょう」


 聖剣アズベインを手にするミア。


 もちろん彼女愛用の剣は別に存在するし、初めて使う剣は重量のバランスなど色々と勝手が違うだろう。実戦でいきなり使用するのは危険すぎる。


 しかし、一剣士として、建国神話に謳われる聖剣アズベインを振るう機会を逃せるわけがなかった。


 そしてなにより、本来のマスターを起こすことなく眠らせてやりたいという心意気が気に入った。


 こうして。

 特に契約を結んだわけでもない剣士と聖剣は洞窟の外へと一歩踏み出した。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る