第6話 追放



「――貴様はもうギュラフ公爵家とは何の関わりもない! さっさと出て行け!」


 葬儀会場。参列者が注目する中。我が義理の息子(ただし年上)は高らかに宣言したのだった。まったく、葬儀の準備も手伝わないで何を言い出すかと思えば……。


 新しい公爵として、前公爵の妻が邪魔だというのは理解できる。それが自分より若い後妻となれば尚更でしょう。


 でも、まさかこんな衆人環視の中、しかも父親の葬儀中に追放宣言するだなんて……。


 ざわめきに包まれる葬儀会場。参列者の感情としては興味、期待、嘲りが大部分を占めており、私への同情はごく僅かといったところか。


 まぁ、私なんて親戚連中からしてみれば『お飾りの妻のくせに公爵家の遺産を持って行く若造』でしかないものね。むしろこの展開は願ったり叶ったりなのでしょう。


 さて、どうしたものかしら?


 この雰囲気では、たとえ取り乱しての泣き真似をしても無駄でしょう。


 お父様が亡くなられた今、私がギュラフ公爵家に留まる理由はない。お父様の告別式をきちんとやり遂げたいという想いもあるにはあるけれど、それは実の息子に任せればいいだけのことだし。


 ……お父様が亡くなる前に、すでに『夫婦』、あるいは『親子』として必要なやり取りは済ませた。

 今、この場にあるのは魂が抜けた亡骸のみ。粗末に扱うつもりはないけれど、無理をしてこだわる必要もない。と思う。


 この様子だと遺産の相続もできなさそうだけど……もうすでにかなりの金額・資産を生前分与されているし、公爵家の運営の手伝いに関して月給をもらっていたので一生遊んで暮らせるだけのお金は持っている……、……あら? もしかしてこういう展開を予想していたのかしらお父様? 老いてもさすがは氷の宰相と恐れられた人物と言ったところかしら?


 …………。


 お父様とのお別れも済ませて。お金もある。


 ……なんだ、別に悩む必要もなさそうね。


 今まで一緒に働いていた公爵家の人たちのことはちょっと気になるけれど……彼らも公爵家に仕える身。雇い主でもない私が心配してもしょうがないでしょう。


 心を決めた私は『元』義理の息子と改めて向かい合った。


「では、もはや私はギュラフ公爵家と何の関わりもないと? 離縁されてしまうと?」


「あぁ! その通りだ!」


 はい、言質取った。

 こんなこともあろうかと持ち歩いている魔導具で録音も完了。

 今後、このバカ息子が何をやらかしても私には一切関係ございません。


「――承知いたしました。ギュラフ公爵家のますますのご発展を期待しております」


 公爵令嬢時代に鍛え上げたカーテシーを決めてから、私は振り返ることなく葬儀会場をあとにしたのだった。



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