第20話 誤解と理解

「アビーは…お母さんは魔物だけど優しい女性ヒト

 でも、いつ裏切られるか解らなくて怖いの…。」

 すっかりアビーに懐いているのかと思っていたジュリア。

 そんな娘がオレに吐露する相談は、他の人からも聞く話しである。


 でも、娘が違うのはここから…。

「ねぇ、お父さん。

 どうしたら、お母さんの事を好きになれるかなぁ?」

 そう、彼女は前向きに魔物と付き合おうとしているのだ。

 まぁ、”魔物”という言葉が持つ響きこそが問題であり、アビーやメイヒルはヒトの女性と何ら変わらない…ちょっと魔力が強いのと長命なだけで…。

「ねぇ、お父さん…。」

 すがるように私の顔を覗き込んでくるジュリア。

「どうして、オレに聞くんだい?」

 いたずらっぽく答えるとジュリアは頬を膨らませ、不機嫌そうに答える。

「だって、お父さんはお母さんの旦那様なんだもんっ!」

 思わず吹き出してしまった。

 当たり前の話が、こうまで違和感のある響きを感じてしまうとは…ジュリアは益々不満そうになってくる。


「そうだなぁ…美人だもんなぁ…って、イタイイタイ!」

 ジュリアに頬をツネ上げられる。


「そうだなぁ…アビーには信頼を置いているかな。

 もう、生活を伴にして10年以上にもなるからなぁ…。」

「始めの頃はどうだったの?」

 ジュリアは真剣に聞いてくる。


ドルイド法国魔国から出奔した時からの仲だもんなぁ…アビーとは。」

「!!!」

 ドルイド法国の名前を聞いて思わず身を乗り出してくるジュリア。


「お父さんも…魔物?」

 ジュリアが震え出す。


「いいや。」

 ジュリアの頭にそっと手を乗せ、彼女を宥める。


「オレは人間だよ。

 まぁ、嫁さんが魔王の一人娘なんだけどな…。」

「そ…それって…。」

 丁度そこへアビーがやって来る。


「あら、あのお話をされるのかしら?」

「ああ、事実を伝えるときだと思うからね。」

「そう…。」

 アビーはジュリアの隣、オレの反対側に座れば、ジュリアはソワソワしている。

 そこで、オレとアビーの馴れ初めから、事の発端をかいつまんでジュリアに説明した。


 ◇ ◇ ◇


「…そうだったんだ。

 お父さんが勇者様だったんだ…。」

「勇者じゃないぞ!」

「そうよ、トンデモナイ女たらしよ♪」

 ジュリアの独り言に、大ボケを繰り出す父母。

 三人の笑顔が広がる。


「判ったわ。

 私、お母さんを信じる。

 これからも宜しくね!」

 そう言ってジュリアはアビーに抱き着く。


「お父さんは、剣技の師匠ね!」

 ジト目のジュリアに頷くオレだった。


 それ以降…

 ジュリアの剣技はメキメキと上達し、アビーとの仲はと言えば…

「あらぁ~、アビーとジュリアちゃん、仲良いわねぇ。

 まるで、夫婦みたい♪」

 たまに遊びに来るアイリスが呆れ顔になるほどに、親子なのか姉妹なのか…はたまた恋人なのか、と思えてしまう程、親密な関係になっていくのでした。

「何だよ、オレとアビーは夫婦っぽく無いってか?」

「ええ、ジュリアちゃんムスメを見習いなさい!」

 不貞腐れるオレを笑って一蹴するアイリス。


「まぁ、行き過ぎは問題だけど、嫌悪一辺倒であるよりは、遥かにいいわ。」

「そうだな。」

 アイリスとともに視線をアビーとジュリアに向けると、丁度食事の準備ができたようで、二人が私達を手招きしている。

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