第49話 会議とねぎらい

 ハイエルフの人たちがハロウィン国の住民になることが決まり、ハロウィン村の幹部も交えて話し合いの場が設けられた。

 村の幹部会メンバー、俺、燕、カヅノさん、タイガさん、ミラさん、それにハイエルフ代表としてアステリッドさんが加わった。


 と言っても、俺に国造りのノウハウはない。今はまだ国ってほどの規模じゃないが、今のハロウィン村の人口だけでもまとめるのは荷が重い。

 こういうとき頼りになるのはやっぱり燕だった。


 幹部会議で、燕はどこから持ち込んだのか台付きの板に紙を貼った即席のホワイトボードを前にさっそく司会進行を始めた。


「ハイエルフのみなさんがハロウィン国に加わったことで、ついに人口が1000人を突破しました」


 燕がサラサラと紙に字を書きつつ話を進めていく。


――――――――――――――――――――――――――

《住人》(※おおよそ)

 総人口1100人

・獣人500人

・人間(追放者)100人

・ハイエルフ500人

――――――――――――――――――――――――――


「この結果、ハロウィン国内にはハロウィン村とハイエルフの集落という2つの集団を抱えることになります。これはもう村から町を飛び越えて市という規模です」


――――――――――――――――――――――――――

《規模》市

――――――――――――――――――――――――――


「ちなみにこの世界では大きな人間の集団として人口規模から、村→町→市→群→州→国と発展していくそうです。わたしたちの当面の目標は国の規模になること。帝国と戦うにはどうしても国家クラスの力が必要だからね」


「ちなみに国の人口目安はどのくらいなんだ?」


「一千万人」


「一千万かあ……」


 まだまだ想像もつかない規模だ。


「まあいきなりそれは無理だから当面の目標は群規模になることね。目安としては人口1万人を超えること」


 燕は『目標→群』と書き込む。


「今ハロウィン国にはだいたい一週間に数人くらいの数で人が集まってきているわ。これじゃあ人口を増やしていくには足りない。周辺の集落や村でハロウィン国に入ってもいいってのを集めて合併して、どんどん大きくしていかないと」


 はい、とそこでカヅノさんが手を挙げる。


「周辺の村と協力、合併していくには、盗賊対策をしていかないといけませんが……」


「そこは新たに仲間になった汨羅がいるから大丈夫。汨羅、今まで盗賊をいいように使っていたことを反省していて関係は解消。今後は積極的に討伐してくれるわ。もちろん私達への情報提供もね」


「同情は一ミリもしないけど、盗賊にとってみりゃたまったもんじゃないだろうな……」


 いままでケツ持ちだった存在が突然敵に変わったようなものだ。


「盗賊退治が終わったら、いよいよ周辺の村と合併ね。ようやくハロウィン国も国らしくなってくるわ」


「エンドア砂漠には盗賊だけでなくモンスターもはびこっています。その危険から守ってもらえると聞けば、周辺の村もすぐ合併してくれるでしょう」


「うまく行けばハロウィン国の人口はどんどん増えていくはずよ。国土もね。そして新しく来てもらった以上、私達は新しい住民を守らなくちゃいけない。食料の確保もね。畑を広げるのも国の防衛力の構築もこれからどんどん忙しくなっていくわ」


「それに関してですが」


 すい、と今度はアステリッドさんが手を挙げる。


「ユグの木の周囲にはモンスターは近づきません。またユグの木そのものも耐火、耐魔法性能に優れています。私達ハイエルフは古来からユグの森を天然の城壁として利用してきました。ひとまずはハロウィン国でも同じように壁として利用してはいかがですか」


「いいのか? ユグの木はあんたらにとって聖なる木なんだろ?」


「もちろん私達はユグの木をとても大切に敬ってきましたが、それはただの信仰ではなく私達の暮らしを守ってくれる実用的な面があったからです。もちろん私達の住む森の中心部には聖地としての神聖な森セイクリッドグローブを育んでいきます。ですがその住処を守ってくださる花咲様たちのお役に立てるなら、ぜひユグの木を使ってください」


「えーっと、つまりご神木としてのユグの木はあるけど、それはそれとして実用品としてのユグの木もあるってことか」


「そのとおりです。さすが花咲様、飲み込みが早い」


「ははは……」


 神社のある日本人のおかげか、アステリッドさんの言いたいことはなんとなく理解することができた。

 燕が後を引き取ってまとめてくれる。


「それじゃあアステリッドさんの提案をありがたく受けて、ハロウィン国の防壁にはまずユグの木を使わせてもらうわね。ひとまずハロウィン村の周囲に植えましょう。これからはハロウィン村がハロウィン国の首都になるわね」


「はい」

「異論は有りません」


 大体の方向性がまとまる。


――――――――――――――――――――――――――

・周辺の盗賊団討伐

・畑の拡大

・防衛力強化

・周囲へのユグの木の植樹

――――――――――――――――――――――――――


「よっし、当面のやるべきことは決まったな。みんな、がんばっていこう!」


「「「はい!」」」


「よーし会議は終わったし、これから宴会に……」


「なに言ってるの。これからハロウィン国の法律ルール決め、財政確認、現在の住民の詳細な把握、食料と武器の把握、やることはまだまだあるわよ」


「ぐえええ〜〜〜」


 王様ってのは大変だ。俺は燕にケツを叩かれながら、細かい物事を決めていった。



 ◆◆◆◆



 その夜、ハロウィン村とハイエルフ合同の大宴会が開かれた。


「ハイエルフの森の再生と、あらたな仲間ににかんぱーーい」


「「「かんぱーーーーい!!!」」」


 みんながグラスを合わせてうれしそうに笑う。

 一方俺は疲労困憊だった。

 なんとか挨拶だけは済ませたので褒めてほしい。


「つっかれた〜〜〜〜〜!」


 ジュースを一口飲んでから椅子に座り込むと、燕、鈴芽、汨羅、ウサがすぐに傍にやってきた。


「お疲れ、天道」

「天道くん会議お疲れ様!」

「さすがにぐったりしているわね。よしよし、私が慰めてあげる」

「汨羅おねーさんズルい、ボクもー!」


 あっという間に美少女に囲まれる俺。これはこれでハーレムと言ってもいいかもしれない。

 汨羅が椅子に座った俺を後ろから抱きしめて、ウサが俺の膝に乗っかってくる。燕はそんな俺達を呆れたように見つめていた。

 鈴芽は、さっとどこかに行ったかと思うと食事と追加の飲み物を取ってくる。


「天道くん、ご飯取ってきたよ、食べて食べて」


「おーう、ありがとな鈴芽。俺もう会議で疲れて疲れて……これなら高校の勉強のほうがマシだったぜ」


「細かい実務を決めたのはほとんどあたしで、あんたは頷いてただけでしょうが」


「ぐうっ」


 燕から冷静に突っ込まれる。

 そうなのだ。今日の会議で重要なことはほとんど燕が提案し決めてくれた。カヅノさんもアステリッドさんも両方集団のまとめ役経験者だが、その二人が舌を巻いて『燕さんは優秀過ぎます。本当に17歳なんですか!?』と驚いていたくらいだ。

 燕がいてくれて助かったぜ。


「ありがとーな燕。お前がいてくれなきゃ俺国造りなんてなんもわからなかったよ」


「ま、あたしはスキルを普段使えないからこのくらいわね。日本での勉強が役にたってよかったわ。天道もお疲れ様。慣れないわりによくがんばったわよ」


 燕がコツンとグラスを合わせてくる。

 俺達のグラスに入っているのは異世界で取れる果物のジュースだ。レモンスカッシュみたいな味がする。


 そうそう、汨羅が生活用品を大量に提供してくれたおかげで、ハロウィン国の日用品は大幅に向上した。グラスもこうして全員に行き渡っているくらいだ。

 汨羅のスキル《米一粒》のおかげで、日用品は一つあればすぐに全員に行き渡らせることができる。


 俺は首をそらして、何故かさっきからずっと俺の頭をなでている汨羅に顔を向けた。


「汨羅もありがとな。このグラスとか、日用品とか、気前よく分けてくれて」


「全然いいのよ。どうせスキルでいくらでも増やせるしね。天道に喜んでもらえたなら嬉しい」


 ニコニコ笑っている汨羅。マジで性格変わったなあ。

 ふと、前から疑問に思っていたことを聞いてみた。


「汨羅はなんでハイエルフに転生したんだろうな。ウサが兎人になったのは《いなばの白ウサギ》からだってわかるが」


 そう訊ねると、汨羅はすぐに答える。


「ああ、それはたぶんハイエルフじゃないと限界までレベルが上げられないからよ」


「レベル?」


「私のナラティブ《曽呂利》最大のデメリットをまだ話していなかったわね。私ね、レベルがものすごーーく上がりにくいの」


《曽呂利》が持つ《米一粒》はチートスキルだ。だからなのか、《曽呂利》には他のナラティブにはない様々な制約があるという。


 まず、《曽呂利》のスキルは《米一粒》しかない。次に、レベル上げに必要な経験値が《米一粒》と同じく2の冪で増えていく。レベル1から2に上がるには2、3に上がるには4、4に上がるには8、と言う具合に……。


「最初の数レベルのときは良かったんだけどね、レベル10を超えたあたりから急激にレベル上がりにくくなったわ」


「そうか。汨羅が百年も生きていてまだレベル32なのは変だと思っていたけれど……」


「そう。レベル上げにものすごい時間がかかるの。私がレベル32になったのは30年ほど前よ。それからずっと定期的に魔物を倒したりしてきたけど、全然上がらない。だって私の次に必要な経験値、85億8993万4592よ。あと何年かかるか考えたくないわ」


「むしろよく32まで上げられたな」


 億単位で必要な経験値なんてどれだけ時間がかかるのか想像もつかない。日本でのソシャゲ周回を思い出す。

 稼ぎイベントとかあれば楽なんだろうが……と考えていると。


「ふふ、私にだけできる効率的な稼ぎ方があるの。この世界にはアンデッド系モンスターっていう動く死体のモンスターがいるんだけど、それは《米一粒》のスキルで増やすことができるの。例えばスケルトンとかに触れて《米一粒》で一気に千体くらいに増やしてから更に倍の数の魔法で倒せば、一度にたくさんの経験値が入るの」


 マジでソシャゲの稼ぎイベントみたいなことをやっていた。


「あれ? 生き物は《米一粒》で増やせないんじゃ?」


「そこは私の認識の問題みたいね。私にとってアンデッド系モンスターは『死体』つまり『生物ではない』という認識なのよ。だってあれ、明らかに死んでいるじゃない? 動いているからってどう見ても死体でしょ。だから《米一粒》で増やせるんだと思う」


 ただね、と汨羅は続ける。


「当然だけど増やしたスケルトンとかグールは操れないから、一度に本当にものすごい数を増やすことはしてないわ。だっていきなり一億のスケルトンを出したら、大変なことになるでしょう? 少しでも撃ち漏らしたら逃げられちゃうし、それでオアシスを死体で汚染でもされたら大変。だから最近はその経験値稼ぎでもレベル上げには時間が掛かるの」


「なるほどな」


 仮に一度の戦闘で1万の経験値が稼げても、一億稼ぐには1万回戦わないといけないわけだ。これは大変だ。


「そんなわけで、私がハイエルフになったのはレベル上げに必要な時間が他のナラティブよりずっと掛かるからよ。人間の寿命だったらレベル30を超える前に死んじゃうもの。ハイエルフは無限に近い寿命があるから、最大値までレベルを上げられる可能性があるからね」


「だとしても膨大な時間がかかりそうだが」


 なんというか、世界のシステムとして不備が無いようハイエルフにされたって感じだ。


「ナラティブによって転生する人種も変わったりするわけか。そうすると人類だけじゃなくて、まったくの別種族に変わっているやつもいそうだな」


 俺の言葉に燕が頷く。


「赤ずきんの狼とか、桃太郎の鬼とかね。特に鬼人は、日本人が多く召喚されてる以上一定数いそうだわ」


 酒呑童子とか、九尾の狐とかも出てくるんだろうか。

 そんなの絶対強いじゃん……。なんとか戦わずにすませたいもんだぜ。

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