第三章 結婚式と初夜と初恋の傷あとと

第21話 結婚前夜は女子会を

「みんな。いよいよ明日ね」


「ああ」


「うん!」


「そうだね」


 結婚式の前夜。ミライは部屋に同じく妻となる友人たちと集まっていた。

 わざわざ出会った日と同じ格好をして熱烈な愛の告白をしたファハドは、翌朝から仕事だと言って出て行って以来、ピエールの屋敷に顔を出すことはなかった。


 一生をかけて口説くと言ったわりに手紙の一つも寄越さない。期待していたわけではないが肩透かしをくらったような気持ちになり、結婚式を前にミライの機嫌はすこぶる悪かった。


「明日、式が終われば私たちは家族になる。みんな、ついてきてくれてありがとう。これからよろしくね」


 ろくに連絡もよこさない甲斐性なしのことはひとまずおいておく。ミライは友に改めて礼を言った。彼女たちからも明るい笑顔が返ってくる。


「こちらこそ、よろしく頼む」


「そうだよ、正妃様!」


「ミライ、これからもよろしくね」


 そうだ。第一夫人になるんだった。ミライはアイシャに肩を叩かれかけられた言葉で自覚する。結婚後の公務も基本はミライが同行するだろう。気が重かった。


「アイシャったら……せっかく忘れかけていたのに。他の婦人が嫁いでくる可能性も低そうだし、困ったわ」


「え、ミライ、他の婦人が嫁いでくると思ってたの?」


 両手を上げて目を丸めているアイシャに「ええ」と頷く。そんなにおかしなことを言っただろうか?


「だって、私たちいわゆる契約婚でしょう? いつか彼に本命ができて、その方を正妃として迎えるんだろうなって思うじゃない」


「いやいやいや」


「それはないな」


 思い切り首を横に振るアイシャ。鋭利に否定するビアンカ。最後にベスを見ると、彼女は困り顔で首を傾げている。


「どういうこと?」


「殿下って、どう見ても初めからミライのこと好きでしょうが」


 ミライが尋ねると、まずはアイシャがキッパリと言い切った。よほど自信があるのか、腰に手を当て鼻から息を吐く。彼女たちは知っていたのか? 驚き瞬きをしていると、ビアンカが頷いて苦笑した。


「気づかない方がどうかしているくらい、彼はミライにベッタリだったじゃないか」


「え……。ベスはさすがにそう思わないわよね?」


 振り向くと、ベスは困り顔のまま肩をすくめた。


「私は恋をしたことはないけど、すぐにわかったよ。殿下のミライを見る目は恋してる人に向けるものだって」


「そんな〜」


 そうか。知らなかったのは私だけか。ベスの返事で頼みの綱はプッツリと切れた。心の底から結婚に興味をなくしていたせいか、都合の良さだけで他のことは見えていなかっようだ。大きく息を吐き、両肩を落とし、ミライは自分の浅はかさに顔を赤らめた。


 独身最後の夜を友人たちと騒がしく過ごしたミライは、翌日ついに結婚式の日を迎えた。白い婚礼衣装に身を包み、控え室でそのときを待つ。式の前に新郎に会うことはできないので、ファハドと会うのは寺院の中だ。今日までまったく音沙汰のなかった男は本当に来るのだろうか? 時間が進むにつれ、みぞおちのあたりがソワソワする。


「お嬢様方、時間ですよ」


 正装したファハドの従者ピエールが控え室の扉を叩いた。ミライは友人たちと顔を見合わせ頷き、立ち上がって控え室の扉を開いた。ふんわりとしたドレスの裾を掴み、ゆっくりと式場へ向かう。


「皆様、こちらに並んでください。指輪の交換は代表してミライ様にお願いいたします」


「わかった」


 ピエールが会場前の大きな扉の前に立つ。緊張と不安でこわばっていたミライたちの心身を和らげるように、笑顔を見せた。


「皆様、とても素敵です。どうかお幸せに」


「ありがとうピエール。みんな、行こう!」


「「うん!」」


 式場へと続く扉がピエールの手で開かれる。ミライは友人たちと手を繋ぎ、場内で待つファハドの元へ足を踏み出し向かった。


>>続く

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