第6話 旧友たちとの再会

「お、お前はミライ、ミライじゃないか!」


 ビアンカが駆け寄ってきて、両腕を広げる。それに応えて、ミライは彼女と熱い抱擁ほうようを交わした。ビアンカ・リバティ、友人である彼女は軍人で、直接会うのは一年ぶりだった。


「久しぶりね、ビアンカ。あなたがこんなところにいるなんて驚きだわ」


「ああ、実は退役したんだ。それで仕方なくこの屋敷に……。だがミライに会えたのだから悪くはないな。元気だったか?」


 ミライは抱きついたまま微笑んでいるビアンカに、苦笑と曖昧な返事しかできなかった。


「ちょっと、そこの女! 私のビアンカに抱きつくとは……覚悟はできているんでしょうね!!」


 直後に背後から突然聞こえる宣戦布告。ミライは慌てて誤解ですと言いたいところだったが、この声に聞き覚えがあった。


 声の主に向かって振り向くと、そこにはやはり見覚えのある人物が立っていた。


「アイシャ……」


「私がアイシャ・メルーリと知っててビアンカに手を出したの? なんて女! 地獄に送ってやる!」


 アイシャは腰に手を当て、こちらを睨みつけている。ミライは説明しようと慌ててビアンカから離れる。彼女も友人だが、薄暗い上に頭に血が登っていて、こちらの正体に気づいてくれなかったようだ。可愛らしい顔に似合わない口の悪さ。相変わらずだと肩をすくめる。


「私よ、ミライ・マクトゥルよ。もちろんビアンカに手は出していないわ」


 ミライが両手を上げ降参のポーズで一歩前に出ると、アイシャは「え?」と首を傾げてから駆け寄ってきた。怪訝けげんそうな表情から、満面の笑みに変わる。天使のようだ。


「ミライ! 久しぶりね! なんだびっくりしたぁ〜」


「びっくりしたのはこっちよ。地獄に送ってやるなんて、よく出てくるわね」


 呆れるミライにアイシャは「それほどでも」と言って照れ笑いを浮かべた。意味が通じなかったようだ。そして今度は隣に立っていたビアンカが肩を縮めて俯いている。


「アイシャ……」


「ビアンカ……」


 二人の間に流れる微妙な空気。なにか言わなくてはとミライが焦っていると、今度は別な部屋から女性の悲鳴が聞こえた。


「きゃあああ!!」


 ビアンカ、アイシャと顔を見合わせる。続いてドン! とドアを叩くような音が聞こえた。


「ねえ、何かあったんじゃない?」


「ああ、あっちの方だったよな?」


 ミライはアイシャとビアンカの言葉に頷き、一緒に声と音がした方に歩き始める。すると再びドアがドンドンと叩かれた。


「ここだわ。どうしたんですか? 大丈夫ですか——?」


 ドアを叩き返し、部屋の中に向かって声を張る。すぐに「助けて!」という返事があった。ミライはドアを開けようとするが、押しても引いても開かない。鍵がかけられているようだった。


「ねえ、ビアンカ」


 こうなったら何をしてでも開けるしかない。ビアンカに合図すると、彼女は「わかってる」と言ってドアの前から数歩下がった。そしてドレスの裾を捲り上げる。


「全員、ドアから離れろっ!」


 大声に合わせ、アイシャとミライはすぐにドアから離れた。ビアンカが勢いをつけて足を上げ、ドアを蹴飛ばした。少し離れたところでアイシャが拍手をしている。


「おい! 大丈夫か!」


「大丈夫ですか?」


 蹴破ったドアの向こうには、中年の男が腰を抜かして尻もちをついていた。男はほぼ半裸のような薄い夜着姿でだらしのない贅肉ぜいにくさらしている。汚いものを見てしまったとミライは目元を歪めた。


「ビアンカ、ミライ?」


「あなたは……」


 ドアの影から聞こえた声。視線を移すとそこにはまたもや知った顔が。


「「ベス!」」

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