現代ダンジョンRTA配信者のほのぼの交流記:RTA技術を利用してみんなを助ける話

marica

1章 ステラブランドの大きな変化

第1話 すべての始まり

「あー、死んじゃったな。クソ乱数を引きすぎた」


 ノブナガ:流れるようなクソ行動の連続、笑っちゃう。

 mist:記録ペースが崩れる姿、いつ見ても楽しい。


 モンスターに倒された俺を見ながら、コメントをしていく視聴者たち。そんな姿を視界に入れながら、再びダンジョンの攻略を再開していく。


 ダンジョンというのは便利にできている。普通に景色を見ながらも、コメントも目の中に入るのだから。VRMMOのステータス画面が、イメージに近いだろうか。あるいはホログラム。


 今回は短剣を持ちながら、最速チャートでダンジョンを走っていた。Eランクダンジョン、『静寂の森』で記録を更新するために。俺がモンスターと戦う姿を眺める人たちと、コメントを通して会話しながら。


「さて、もう1回挑んでいくか。今日は夜まで続けるぞ」


 ソニック:ダンジョンに1日中潜るような頭のおかしい配信者が居るってマジ?

 ノブナガ:初心者か? ステラブランドは週5で10時間ダンジョン周回してるぞ。


「俺は頭おかしくないけどな。あ、ソニックさん、いらっしゃい」


 mist:そもそもダンジョンに潜ってる時点で狂人定期。

 茜空:それはそう。モンスターの攻撃で死の苦しみを味わうのが平気なやつはおかしい。


「狂人なんて、大概な物言いだな」


 茜空:俺はダンジョン攻略なんて絶対無理だから、RTAやってるのは尊敬できる。

 ノブナガ:ステラブランドはEランクダンジョンとはいえ日本記録持ちだぞ。化け物に決まってる。


「日本1位が世界5位なのは悲しいところだよな。どうせなら、もっと記録を伸ばしたいものだ」


 そのためにも、もっと良い乱数を引きたいものだ。立ち回りも改善できる部分があるとはいえ、俺の領域まで来てしまえば、運の方が影響が大きいからな。


 一応、まだ実力は上げられる。世界記録を取るためには、もうちょっといい動きができるようになっておきたい。それでも、試行回数の暴力が強いジャンルなんだよな。『静寂の森』RTAは。


 ということで、もう一度同じダンジョンに挑んでいく。死んでしまえば入り口から始められるのは、RTAを走る上で都合が良いよな。


「いずれは、NoFutureさんの世界記録を抜きたいよな。世界1位は、大きな目標だ」


 ノブナガ:世界記録取ったら万単位でお布施するわ。

 茜空:NoFutureの記録、運が良すぎてビビるよな。


 視聴者の中にも、詳しい人間が居るよな。何回も名前を見る存在もいるから、俺の配信で覚えた部分もあるのだろうが。


「お布施は無理しなくていいからな。俺は金に困ってないから」


 まあ、今はいい。記録を目指すために、ダンジョンに進んでいくだけだ。ついでに、適度にコメントを拾う。同じルートを走り続けていると、飽きてくるからな。


 soul_smash:静寂の森は走りにくそう。


「そうでもないぞ。所詮はEランクダンジョンだからな。厄介な敵もトラップもない」


 ということで、死んだことで追い出されたダンジョンの入り口に進んでいく。門らしきものの中に入れば、選んだダンジョンに侵入できる。いまも同じダンジョンを攻略している人は居るのだろうが、出会うことはない。それぞれが、同じダンジョンでありながらも別の空間にいるのだ。


 要するに、ゲームをプレイしている奴らが同じステージをプレイしていても、互いに干渉しないこと。それと同じだな。ダンジョンというものは、とにかく不思議だ。


 県に数えるほどしかないダンジョンの入場口から、再び『静寂の森』へと入っていく。すると、一般的な建築物から森へと光景が移り変わっていった。


 mist:ダンジョンに入る瞬間はだいたい目をつむってるわ。

 ソニック:これが静寂の森の入り口か。結構見晴らしが良いな。


 森の割には、光が届いている感じはある。だが、ここはモンスターが現れるダンジョン。光景に集中している余裕はない。そもそも、俺はRTAをしているんだ。


 ということで、全速力で駆け出していく。


 ソニック:はっや。人間卒業してるわ。

 ノブナガ:ステラブランドは化け物。これは常識。


「とりあえず、あと少しで初めてのモンスター、バイトラビットが現れるぞ。一瞬で死ぬから、見ておいてくれ」


 言葉通り、すぐに牙の生えた兎が視界に入る。そして、すれ違いざまに短剣で首を刈っていく。なんだかんだで、失敗したら反撃を受けるリスクがある技だ。そして、攻撃をまともに受ければ大ダメージを受けるんだよな。


 mist:あの牙に当たっただけで、相当痛かった思い出があるな。配信者は、よく悲鳴をあげないものだ。

 ソニック:っていうか、動きが手慣れすぎだろ。殺し屋か何かか?


 ダンジョンというものは、とにかく人間にとっては危険な場所というか、難しいところだ。いくら強くなっても、人間が死ぬ攻撃を受けたら死ぬ。だからこそ、ベテランがEランクダンジョンで死ぬことだってある。


 まあ、死んだところで痛くて苦しいだけで、現実の肉体は傷ひとつ負わないのだが。とはいえ、ダンジョンに潜る仕事は人気がない。痛みに耐えるだけで、後は楽に稼げるのだが。


 モンスターを倒すとドロップアイテムが手に入って、現実に用意している入れ物にいつの間にか入っている。だから、回収を考える必要すらない。


 全体的には、割の良い仕事だと思うんだがな。適当に遊んでいるだけで、配信に人気がなくても生きていける。痛みだって、実際にケガを負うわけでもないのだし。


「まあ、毎日走っているからな。慣れているのは当然だ。痛みは、何回かで平気になるぞ」


 茜空:大嘘だぞ。配信者がやべえやつなだけだろ。


「そうか? 人気がないのが疑問なくらい、簡単に儲かるんだが」


 ノブナガ:ステラブランドはサイボーグ。よく分かる一言。

 mist:俺は安月給でも痛みが無い方が良いわ。


 そんなこんなで話をしつつ、モンスターを片付けて進んでいく。しばらくして、1層ボスであるデスラビットのところへやって来た。


 赤くて牙の生えた兎が、鎌を持っている。メチャクチャな見た目だが、まあ普通に戦えば勝てる相手だ。ただ、記録狙いだと鎌を振られた時点で厳しい。噛みつきだと、問題なく倒せる。


 というか、噛みつきに決め打ちしないと記録ペースでは走れない。鎌の攻撃は、急所に当たれば死ぬので、回避行動を取る必要がある。その上、モーションが長いんだよな。


「さて、鎌を振ってくるなよー。行くか。【電光石火】だ」


 スキルを発動すると、短剣を連続で突き立てていく。このモーション中に鎌を振られたら、大体死ぬ。後は、運に頼るだけ。


 結果として、まっすぐ突っ込んで噛みつきを放ってきたデスラビットは、【電光石火】の連撃で技を止められる。そのまま、のけぞっている敵に追撃を放って倒していった。


「よし、一層は良い乱数だった」


 mist:鎌を引いたほうが面白かったのに。

 ノブナガ:まだ油断はするなよ。


「記録ペースだからな。このまま更新していきたいところだ」


 全5層のダンジョンだが、そこから先は、大きなミスをすることもなく攻略できた。乱数にも恵まれ、5層ボスのデッドタイガーを倒した時のタイムは、自己記録だった。


「よし、自己ベストは更新だ。とはいえ、順位は上がらないんだが。まだ世界5位のままだ」


 ノブナガ:この調子で世界記録まで伸びてほしいな。

 fallen:チャンネルをフォローしました! 応援しています!


「fallenさん、ありがとう。今日の配信は、とりあえず終了だな」


 ということで、ダンジョンの門がある建物から出て、自宅に帰る。すると、ダイレクトメッセージが来ていた。


 angel_blood:ステラブランドさん、一緒にSランクダンジョンを攻略してくれませんか?


 このメッセージが俺の人生を大きく変えることなんて、この時の俺は全く知らなかった。

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