第2話:ついてくる紅子ちゃん。

「じゃ〜またあとで・・・あなたが旅館出る時、また現れるから・・・

ひとりでほいほい帰らないでね」

「絶対、ついて行くからね」


そう言って紅子さんは部屋を出て行った。

まるで狐につままれたような、にわかに信じがたい出来事だった。


小山田 紅子おやまだ べにこって言ったか?


大翔はノートパソコンで紅子さんのことを調べてみた。

だけど河童の伝承はいくつか出てきたが、彼女に関しての情報は

なかった。


ただ紅子さんと違う点は遠野の河童は顔が赤いんだそうだ。

猿が起源との説もあるようで猿の子どもの顔が赤く見えることから

そうなったとも伝えられてるらしい。

遠野では河童はやはり神様なんだそうだ。


もしかしたら紅子さんはよそからカッパ淵に引っ越してきた河童なのかも。

河童の伝説は遠野に限ったことじゃなく九州の天草にも河童伝説は残ってる。


「それにしても、俺がタイプって・・・一目惚れしたって言ってたけど」

「これまでだって何千人、何万人の観光客がカッパ淵を訪れただろ?」

「そこがどうも解せないんだよな・・・」


「ん〜・・・まあいいか・・・それはそれとしてこのまま紅子さんには

悪いけど黙って旅館を出ようかな」

「帰ったら旅の不思議な出来事としてちょっとしたエッセイでも書こうかな」


「相手が河童でしかも神様なんて・・・恐れ多いわ・・・」

「ましてや河童が彼女なんて・・・ありえないだろ・・・絶対持て余すに

決まってるよ」

「さっさと旅館を出よう・・・そうしよう」


ってことで大翔は旅館をチェックアウトした。

受付でもしやと思って、周りを見渡してみたけど紅子さんの姿はなかった。


今がチャンスと思って大翔は旅館が出してくれたマイクロバスに乗って

もよりの駅まで向かった。


駅に降ろしてもらって、お礼を言って、無人駅で乗車切符を買おうと

自販機の前に立って財布から小銭をだそうとした、その時だった。


大翔の尻をツンツンつつくやつがいる。

とっても嫌な予感がした。


彼は振り返ると、すぐに目線を下に向けた。


「乗車券・・・わたしの分も買ってくださいね・・・」

「彼女を、ほったらかして、ひとり寂しく帰っちゃうつもりですか?」


「私を置いてかないでよ・・・ヒロト君」


「いや〜やっぱりさ、これってマズくない?」

「河童って・・・人間と河童なんてどう考えたって釣り合い取れないでしょ」


「嫌なの・・・・嫌なの?・・・私みたいな女」


「ああ・・・そうじゃなくて・・・嫌とかじゃなくて・・・困ったな〜」


「困ることないでしょ・・・河童の彼女なんて超レアだよ?」

「こんな貴重な彼女、普通手に入らないよ」


「まあ、たしかにそうだけど・・・」

「でも俺、まだ独身だよ」

「一緒に連れてけってことは俺のマンションまでついて来るってことだろ?」

「独身男のところに、君みたいな・・そのお茶目な子がいちゃ、なにかと

マズイでしょ」


「彼女なんだからいいじゃない・・・私が行っちゃなにがマズいことでも

あるの?」

「エッチしたっいって言っても拒否したりしないよ」


「え?なに言ってんの・・・エッチしたいってそんなこと言うわけないだろ」

「俺がいきなりそんなことする男だと思ってるのか?」


「そんなにムキにならないでよ・・・たとえばだよ」

「って言うか、話はあとにして早く切符買わないと電車来ちゃうよ」


「あ、そうか・・・」


「忘れずに私のぶんも買ってね」


「ってその前に紅子さん裸じゃん・・・電車に乗る前に服着せなきゃ」


「私の彼氏なんだから、紅子さん、じゃなくて紅子ちゃんって呼んで」


つづく。

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