第10話 ゲーセンファイター

 問題。放課後に彼女を連れてデートするための場所を答えなさい、配点五点。

 これをすんなり解けるやつはリア充かその予備軍だ。おめでとう。

 だけど残念なことに俺は答えがなにも浮かんでこなかったんだよな。


 千歌が満足するためには、タピオカとかクレープとかそういう店に連れて行けばいいんだろうか。

 いつもの帰り道を少し外れて繁華街の方まで当てもなく歩いていたけど、全くといっていいほどわからない。

 デートじゃなくて遊びに行く、くらいの感覚だったら結構出てくるんだけどなあ。


「空、どこ行くつもり? 結構歩いてるけど」

「いや、その……なんだ。この辺にクレープ屋とかタピオカ屋とかあったかなって」


 俺が貧困な発想で絞り出した答えを聞くなり、千歌はげんなりした表情を浮かべる。

 どうやらその二つは不正解だったらしい。


「今時タピオカって……ていうか私タピオカそんな好きじゃないし」

「飲んだことがそもそもないからわからん」


 食感がもちもちしているとは聞いているけど、そんなものをミルクティーの中にぶち込んでもミスマッチなんじゃないか?

 単なる食わず嫌いと返されたらぐうの音も出ないけどな。


「うーん、デートって課題は空には難しすぎたかぁ」

「ごめん、正直難しい」

「じゃあさ、遊びに行こうよ。昔みたいにさ」

「それぐらいなら、まあ」


 課題を解けなかったのに、案外満更でもなさそうに千歌ははにかむ。

 でも、正直なところありがたい。

 遊びに行くぐらいだったらお安いご用だ。タイミングよくその辺にちょうどいいゲーセンがあるからな。


「ゲーセン?」

「デート先なら不正解だろうけど、遊びに行くならありかなって」

「うーん、別に私はデート先でも構わなかったけどなぁ」


 そうなのか。

 ゲーセンはデート先としては悪手も悪手だとか前に聞いたことがあるから、すっかりそういう先入観ができあがってしまったみたいだ。

 恋愛は難しすぎる。恋愛のれの字もわからない、全く。


「で、なにするの? 定番のUFOキャッチャー?」

「なんかほしいものでもあるのか?」

「いやー、別に? ただなんとなく」


 本当にどうでもよさそうに答えた辺り、実際千歌の関心はなさそうだった。


 しかしUFOキャッチャーか。UFOキャッチャーなあ。


 ラノベじゃこう、彼女が欲しがってるものをスマートに一発で捕獲して仲が進展、なんてシチュエーションは定番だけど、残念なことに俺はUFOキャッチャーだとかクレーンゲームだとかがめちゃくちゃ苦手なんだよな。


 その代わりに得意なものがあるけど、千歌がそれを見ていて楽しいのかどうかはわからない。

 それでも一緒に遊ぶくらいならなんとかなる、だろうか。


「やっぱ空はそれだよねぇ」


 俺の視線がそこに、格ゲーやアクションゲーが集まっている一角に向いていたことに気づいた千歌が、呆れたように笑う。

 ほとんど無意識だったけど、わかるものなんだな。


「いいよ、私は見てるだけでも楽しいし」

「悪いな、千歌」

「ううん、本当は私もタッグ組めるぐらい強くなれたらいいんだけどねー」


 生憎私そういうの苦手だからさぁ、と千歌は笑う。

 俺がクレーンゲームだとかが苦手なように、千歌はアクションゲーや格ゲーの類が苦手だった。


 だから、小さい頃に大乱闘するゲームで一方的にボコボコにしてたらガチ泣きされたことがあったんだよな、確か。


 それ以来、我が家と千歌の家では格ゲー禁止令が敷かれたんだったか。なにもかもが懐かしい思い出だ。


「店内マッチ?」

「一応」


 筐体の前に腰掛けた俺に、千歌が小首を傾げながらそう尋ねてくる。

 全国マッチでもいいんだけど、ここのゲーセンは穴場というか、ある種「通好み」の店だ。

 百円を筐体の穴に投入、その後ICカードを指定の場所に当てて、俺は所狭しと並んでいる国民的ロボットアニメのキャラクターから、お気に入りに設定しているキャラを選択する。


 話が逸れたか。

 要するに、「通」が集まる都合上、全国マッチよりも店内マッチの方が猛者と出会える確率がデカい。

 どうせ戦うなら強い相手とやった方が色々と燃えるだろう。それだけの話だ。


「ルールはタイマン、っと」

「女の子を待たせてるんだから、格好いいとこ見せろよー?」

「任せろ、サクッと十連勝してやる」


 千歌の煽りにそう答えて、俺は対戦相手がやってくるのを待つ……間もなく、一秒も経たないうちに成立した対戦に放り込まれた。


 このゲーム、ロボットアニメが題材なだけに射撃寄りと格闘寄り、そしてその中間の万能寄りの三つがあるんだけど、俺の使っているキャラは格闘寄りのアグレッシブなキャラだ。


 大して、マッチングした対戦相手の「Yuki.7」なるハンドルネームのプレイヤーは、射撃寄りのキャラクターを選出している。

 有志が作ったダイヤグラムでは四対六ぐらいでこっちの方が不利だったか。

 そのぐらいなら、捲れなくはない。


 開幕、キャラクターの台詞と同時に「Ready Go」の表示が点る。動けるようになるなり俺は相手の射撃をじりじりとかわしながら、円を描くように相手を追い込んでいく。


「ははははは! 対策さえしてりゃ大体どうにかなるんだよ!」

「おー、イキってるねー」

「……」


 いかん、テンション上がりすぎた。

 千歌からの指摘を受けて急に恥ずかしくなってきた俺は、淡々と壁際に追い込んだ相手をハメ技で拘束して撃破する方向にシフトする。


「はい一勝、GG」

「毎回思うけど空って誉れの類とかないよね」


 そんなもん浜で死んだよ。

 この手のゲームはいかに相手が嫌がることを率先してやるかどうかに全てがかかってるんだからな。


「お、リターンマッチ申請きてる」

「受けるの?」

「一応な」


 この「Yuki.7」とかいうプレイヤーは、中々どうして諦めが悪かった。

 前に戦ったときも七戦ぐらいリタマを要求されたような記憶がある。


 まあ、そのときも七戦全勝だったんだけど。

 そんなことを考えている傍ら、その後もキャラを変えて挑んでくる「Yuki.7」を対面するキャラごとにパターンを組んだ得意のセットプレーで撃退している内に、いつしか俺は制限である十連勝に届いていた。


「おー、すごっ。相変わらず上手いねー、空は」

「一応店舗ランキング一位だからな」

「へぇ……そのぐらい女の子の扱いも上手ければいいのに。うひひ」


 いやもう、全くもって仰る通りです。

 ぐうの音も出ないとはこのことだ。

 十連勝という、ゲームの中ではそこそこの偉業を達成したのにもかかわらず、俺はどこか肩身の狭い思いでゲーセンをあとにすることになった。

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