031:激突のマカダミア④
「オサム!」
泣きそうに震えているその声でオサムの意識は地上へと帰ってきた。
「ドリー……無事だったのか?」
駆け寄ってきたドリーを胸に受け止めて、オサムは辺りの状況を見渡した。
「勇者様が目を覚ましたぞ!」
「良かった、無事だったか!」
いつの間にか騎士達に囲まれていた。
意識を失ったオサムは、騎士達に守られていたのだ。
その先頭に立つのは一人のエルフの騎士だった。
シュガルパウダンの切り札、オリビンだ。
「オサム、大丈夫?」
「あぁ、俺は大丈夫だ」
戦況は人間軍が不利に見えた。
負傷者の姿が多く、北の町マヌカへ撤退しつつの戦いになっている。
「よし、エルフの姉さんが頑張ってくれてる間に町へ移動するぞ!」
「負傷者を運べー! 我々は一時、撤退する!」
「すみません、こんな状況で迷惑かけるなんて……」
自分のために身を犠牲にした兵士がいるかもしれないと思うと、悔しくて仕方がなかった。
謝罪に意味なんかないと分かっていても、言葉は零れる。
すると、オサムは兵士の一人にバチンと豪快に背中を叩かれた。
「何言ってんだ! あんたは立派に戦ってたじゃあないか!」
「あぁ! 俺はバッチリ見てたぜ! この子を背負って守りながら戦うアンタの姿を!」
はたから見るとそう見えるらしい。
守ってもらっているのはオサムの方なのだが。
「それに、まだ終わりじゃねぇ! 一時的に撤退するが、まだ人類が負けたわけじゃないからな!」
「帝国の騎士達も来てくれる! マヌカで防衛線を張るぞ!!」
そうだ。
気持ちを切り替えるんだ。
自分に出来る事、今なら分かる気がする。
「オリビンさん!」
オサムはすぐに覚悟を決めた。
後悔する前に、行動するだけだ。
オリビンは視線だけを町へ向けてそれを返事とした。
人々を守れ。
そう言っている気がした。
「はい! 町の人は、俺が守ります」
オリビンは小さく頷くと、無言のまま戦いに戻って行ってしまう。
「ドリー、みんなを守ろう」
「でも……」
オサムが伸ばした手を前に、ドリーが固まる。
その戸惑いをオサムも理解できた。
再び力が暴走するのを恐れている。
「大丈夫。根拠はないけど……大丈夫な気がするんだ」
その手を掴みはしなかった。
オサムはただ、ドリーを優しく見つめ、待った。
「わかった。オサムがそう言うなら、私はオサムを信じる」
「ありがとう」
ドリーの小さな手が、オサムの手を強く握る。
オサムはそれを優しく握り返した。
その力の本質がいったい何なのか。
結局の所、分からないままだ。
ただ一つ、その力を使ったものは死ぬ。
オサム以外の人間はそうして死んでいった。
わかっているのはそれだけ。
それ以外は全てが謎に包まれている。
どこで、どうやって生まれたのか。
あるいは作られたのかもしれない。
何も知らない。
でも、オサムはドリーという女の子の事ならば、少しは理解しているつもりだった。
人との関りを恐れながらも実は寂しがり屋で 無口で無表情だがオサムはその感情を読み取れるようになってきた。
ドリーはとてもやさしい娘だ。
だから、その力を恐れる必要なんてない。
「行くよ!」
「うん!」
互いの手が触れ合う。
それだけで光が、力が溢れ出す。
正面から向き合うと、ドリーと初めて会った時を思い出した。
思わず、言葉が口をつく。
「それで、どうする?」
「どうって?」
ドリーはポカンとして首を傾げた。
きっと、あの時のオサムもそうだったのだろう。
「じゃあ、質問を変える。ドリーはどうしたい?」
その力の契約を受け入れる。
最初からそうだった。
死は怖くない。
誰かのために命をかけられるのなら、それは何の役にも立てずに見捨てられるよりずっとマシだと思えるから。
「今の俺なら、ドリーの望むままにできる」
自分のためじゃない。
このやさしい女の子の為に、命を捧げる。
「私は……人間じゃない。魔族でもない。でも、守りたい。この世界が好きだから。人間も、魔族も、みんな死んでほしくなんかないから」
本当は最初から分かっていたような気がする。
ドリーの望みがその力の奥底にあったような気がした。
「うん。そうしよう」
漲る力はどこまで透明で、まるで二人は、はじめから一心同体のようにつながっていく。
「俺達でこの争いを終わらせよう」
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