【勇者Lvマイナス999】底辺を究めし俺、どうやら1周まわって最強無敵の存在らしいです~覚醒した真の勇者は仲間も世界もどっちも救うし、もちろんスローライフも満喫する~

ライキリト⚡

序章:異世界

001:異世界に来たる


 リンと鈴の音がした。

 悲鳴と嗚咽に支配されたその場所で、その鈴の音だけがハッキリと聞こえていた。


 絶望の渦の真ん中で、真白な少女が笑顔で手を伸ばす。


「……きっと、ここが伝説の始まりです。さぁ、世界を救ってみましょうか」


 その結末は知っていた。

 だから、はその手を握るその瞬間、涙が流れるのを止められなかった。


 そんな夢を見ていた。




 ……


 …………


 ……………………




「おい、着いたぞ。さっさと降りろ!」


 オサムは荷馬車から蹴り落されて目を覚ました。


「ぐぇ」


 固い地面にキスをして、変な声がでた。

 土がしめっている。


「いてて……」


 口元をぬぐいながら顔を上げると、目の前にあったのは巨大な廃墟だった。


「俺の役目はここまでだからな、後は自分でなんとかしてくれ。まっ、がんばれよ。。はははははっ」


 案内役の帝国騎士は最後に嫌味だけを残して帰っていった。


「ちぇ、どうせ下っ端のくせに」


 その背中に聞こえない程度の悪口が、オサムのささやかな抵抗だった。


 帝国の守護任務からは外されて、重要度も低いであろうただの子供を送り届けるだけの役回りなんて任されるのだから、その帝国騎士が下っ端であるには違いない。


 それに対して、勇者とはこの世界を救う唯一無二の存在であり、帝国にとって何としてでも仲間に加えたい貴重な人材である。


 しかし、そんな下っ端の帝国騎士にもバカにされる勇者がいた。


 それがオサムという存在だった。


 世界を滅ぼさんとする大魔王と対等に戦える唯一の職業『勇者』。

 全世界にも数えるほどしかいないその内の一人。


 ……そのハズなのに、オサムはこんな廃墟に捨てられてしまった。


「はぁ……なんで俺だけこんな事に……」


 荷馬車の足音が遠くなり、オサムだけが廃墟の前に取り残される。


 草木も枯れた荒野の真ん中で、ボロボロの巨大建造物を見上げて、オサムは思い返していた。

 自分が異世界に召喚された時の事を。





 簡潔に言えば、オサムはある日、知らない世界に強制的に連れ去られていた。


 居眠りしてしまっていたオサムはその時の事を覚えていないが、それは授業中の出来事だったらしい。


 オサムが今まで感じたことのない、イメージ的にはいきなり無重力空間に放り込まれたような奇妙は感覚で目を覚ました。

 すると、そこはすでに見知った教室ではなかったのだ。


 そこは見たことがない木々に囲まれた森の中の広場のような場所だった。

 そこにはオサムとそのクラスメイト全員がいて、そして白装束に身を包んだ不審者達に取り囲まれていた。


「なにこれ……?」


 オサムたちは考えるヒマもなく、ワケが分からないままに森から大きな城へと連れていかれた。


「ようこそ、勇者たちよ」


 そこでこの世界の中心である国の国王だと名乗る人物から直々に異世界召喚の説明をされたのだった。


「我が国は……いや、我々の世界は今、滅亡の危機に瀕しておる。大魔王が率いる魔王軍により次々と国が滅亡しておるのじゃ。魔王軍に抵抗するには、大魔王と対等に戦える勇者が必要……その勇者こそが、お主らなのじゃよ。頼む、我らと共に戦ってくれ!!」


 要約するとこんな話だった。


 言ってしまえばオサム達は、この世界の人類が魔族とやらと戦うための戦争の道具として呼び出されたという事らしい。


 もちろんクラスメイト達は大反対した。


「いやいや、ムリですよ! いきなりそんなこと言われても!!」


「そうだそうだ! 俺たちを元の世界に帰してくれよ!!」


 平和な世界で暮らしてきて、争い事なんて受験勉強や恋愛くらいでしかしたことがない子供たちだ。

 それがいきなり命がけの戦争になんて突っ込んでいけるワケがなかった。


 ……だが、オサムたちには初めから選択肢なんてなかった。


「すまないが、それでもお主らは戦わなければならぬ」


「だから、なんでだよ!?」


「この召喚の儀は、我らが世界の神の力を借りる事で初めて成功する。多くの犠牲を払ったが、我々は神の力を借りる事ができた……つまり、神はお主らをこの世界に必要としたのじゃ。この世界を救うためにな」


「なにソレ!? 意味ワカンナイし!」


「それが成されぬ限り、神はお主らを手放さぬのだ。神の意思なくしてお主らを元の世界に送り返す返還の儀が成功するはずもない。それがこの世界の理なのじゃよ」


「いや、マジでワケわかんねぇって……知るかよ、この世界の神とか」


 クラスメイトたちは文句を言い続けたが、それでも何も変わらなかった。


 戦わなければ世界は滅び、オサムたちもこの世界の人類と一緒に殺されるだろう。

 生き残るには戦わなければならず、そして元の世界に帰るためにも戦わなければならない。


「もちろん我々に出来る限りの援助はさせていただく。身勝手は重々承知の上だが、あとはお主らの気持ち次第じゃ。我々は、お主らに世界を託すと決めた。お主らが戦いを望まぬのなら、それもまた我々の運命という事じゃろう。その未来を受け入れるつもりじゃよ」


 クラスメイト達はしばらく悩んだが、結局は戦う事に決めた。


 誰もが元の世界に帰りたかったし、何より召喚された全員に極めて高い『戦いの才能』があると分かったからだ。


「お主らは一人残らずが生まれついての戦士。だからこそ『勇者』なのじゃ。故に我らが神に選ばれた。その証を、今、お見せしよう!」


 そして、クラスメイト達は自分が持っていた真の才能を初めて理解することになった。


「ステータス、オープン!!」


 国王の声と共に、オサム達の体は光に包まれた。

 金色にも銀色にも思えるような、満月の夜の月光みたいな優しい光だった。


 全身から溢れていた光は徐々に収束して光の玉になり、そして各自の左の手の平に吸い込まれていった。


「今の光の強さこそがお主らの強さの証じゃ。普通の人間なら、光っても手のひら程度かのう。全く光らぬ者もおるくらいじゃ。もっと分かりやすく見せてやろう……レベル・ウィンドウ!」


 すると一番先頭にいたクラスメイト、アオキの手の平から光が飛び出した。

 その光は「189」という数字の形に見えた。


 途端に周囲の白装束達がザワつく。


「おぉ、いきなりハンドレッド・クラスだ! これは期待できるぞ!」


「素晴らしい! 帝国騎士の精鋭ですら100を超えるものは少ないというのに……!」


「この若さでそのレベルに達しているとは何たる才能か! 末恐ろしい!」


 国王が「レベル・ウィンドウ」と言うたびに、クラスメイト達の手から光の数字が浮き出てくる。

 クラスメイト達は「100」どころか「200」や「300」なんて数字を次々に叩き出した。


 そしてオサムの番が来た。


 自慢できるものなんて何もなかった自分にも、人に誇れる才能があった。

 その事が純粋にうれしかった。


「レベル・ウィンドウ!!」


 オサムは手の平から溢れる光を祈るような気持ちで見つめた。


 そして、そこに現れた数字は「999」だった。






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 【作者あとがき】

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