壊れた世界の中で ~アドベントカレンダー2023~

夕日ゆうや

第1話 戦闘

 戦場を飛び交う銃弾の雨あられ。

 青い縁取りの白を基調とした対戦術戦闘衣装バトル・ドレスを着た少女が、戦地の灰色の空を飛翔していく。

 地を駆ける者を、一瞬で消滅させる彼女。

 名はルビー=エイチ。

「ルビー、下から来る!」

「そんなの分かっているわよ! レイナ!」

 空をともに駆ける白と赤を基調とした、どこか巫女服を意識した格好のレイナ=リキ。

 火砲の照準を合わせると、陽電子砲が火を噴く。

 空気を裂く音がとどろく。

 消滅していく敵兵士。

「まったく。疑似対戦術戦闘衣装なんて、正気じゃないわ」

 わたしはそう言うと、敵軍に目をやる。

「撤退か……?」

 レイナが小さく呟く。

 軍が引いていく。まるでごま粒のような彼らが奥にある山を越えていくのが見える。

「そう、なら追撃はしないことね。レイナ」

「……はっ。ご命令とあらば」

 どこか含みのある言葉を向けるレイナ。

 彼女は〝ゼルマン〟を憎んでいる。

 彼らの私兵も含めて、この世界から追いだそうとしている。

 それはわたしにはどうにもできないこと。

 ただ言えることはレイナを失いたくない、という友達心ともだちごころだろう。

「さ、帰艦するわよ」

「は。ルビー」

 前戦を押し上げた我々は優勢である。

 灰色の空。うごめく有象無象。黒い戦艦。荒れた大地。

 どれもこれも花がなくて寂しい。


 昔はこうではなかったのに……。

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