第14話 襲来、ギャルと姫カット!

 窓から眩しい日差しが「朝ッー!」とばかりに射し込んでくる。


「うおっ、寝てたっ!」


 ケーブルに繋いでたスマホを手に取る。

 なんか通知がいっぱい来てる。

 時間がないからあとで確認しよう。

 まず、今日すること。

 登校時にメンバー募集の張り紙を貼っていく。


(急げばギリ間に合うか……?)


 バッとルーズリーフを取り出し、ガリガリと書き込んでいく。


  アイドルグループ『Jang Color』メンバー募集!

  高校生がやってるアイドルです!

  詳しくは以下のポイッターまで!


(う~ん、こんなもんか……?)


 わからないけど、書き直してる暇もない。


(ああ……これも一応書いとくか)


  今、ネットでバズってます!


 空いたスペースにそう付け足す。

 どれくらいバズってるかは確認してないし、それを売りにするのはあまり気が進まない。

 けど、うちの今の売り文句は実際これしかないんだから仕方ない。

 ルーズリーフをカバンに詰め込み、バタバタと着替えるとリビングへと向かった。


「あら、聡太。あんた昨日下りてこなかったから晩ごはん、お弁当にしてるわよ。冷蔵庫の中」


「あ、うん! わかった!」


 エプロン姿の母の言葉を背中で受け流し、冷蔵庫から取り出した弁当箱という名のタッパーをカバンに押し込む。


「朝ごはん食べないの?」


「いい! 時間ない!」


「なに、そんなに慌てて? めずらしいわね? なにかあるの?」


 はい出た~、親からの詮索。

 家族って、こういうちょっとしたことですぐに口を挟んでくるから面倒くさい。


「ほら、あれじゃないか? さららが言ってた、あ~……バズった? とかなんとか」


 ぼんやりした声でつぶやくのは、オレの父親。

 片耳に無線イヤホンをつけ、タブレットで古い洋画を見ながら朝食を食べている。

 しかしなんだろうな……親の口から「バズった」とかの不似合いな言葉が出ると無性にモヤモヤするのは。


「そうだよ! 兄貴バズってんだって! それにアイドルグループ作るって! ほら、うちに来てたキレイな女の人と!」


 さららぁ~……!

 お前、マジでペラペラ喋ってんじゃね~よ。


「あら、聡太が有薗正ありぞのただしみたいになっちゃうってこと? あの『飛鳥山55』のプロデューサーの」


「聡太も有薗正みたいにプロデュースするアイドルと結婚するのかなぁ~。聡太、ファンに刺されないようにな……」


 適当なことを抜かす両親に、思わずイラッ。


「ちげ~よ! オレはあんなのじゃなくて、ちゃんとしたグループ作るの! もう、ほっといてよ!」


「ほっといてって言われても、思い込みの激しい聡太のことだから心配だわぁ。よそさまの娘さんに迷惑かけてないか……あ、そうだ、一度女の子のお家にご挨拶に行かなくちゃね」


「いいよ、行かなくて! だからほっといてって!」


「聡太……今は条例が変わって未成年同士で合意があってもわいせつ行為をしたら逮捕されるケースがあるからな……それだけ覚えておきなさい……」


「しねぇ~よ! あんたら朝から下世話すぎんだろ!」


 あぁ……親にプライベートに踏み込まれるとすげ~ムカつくのはなんでだろう。


「ちょっと、兄貴! 学校行く前にあれやってよ! 地下ドルオタをなめんな! ってやつ! ……って、ちょっと聞いてる!? ねぇ、兄貴ってばぁ~!」


 さららを無視して家を飛び出す。

 学校までは電車で四駅。

 メンバー募集の張り紙をコピーするために駅前のコンビニに入る。


 ウィーン。


「いらっしゃいませー」


 店内には、うちの生徒もチラホラ。

 入口の横にあるコピー機に、チラシのルーズリーフをセットしようとする。


(ヒソヒソ、ヒソヒソ……)


 え、ちょっと待って。

 なんか……注目されてない?

 いやいや、気のせいだ。

 自意識過剰はいかん。

 ちょっとネットでバズったからって、まさかそんないきなり街中で特定されるってこともないだろう。

 そう思いながらルーズリーフをセット。

 白黒コピーで一枚十円。

 う~ん、とりあえず二十枚でいいかな。

 チャリン&ポチッ。


 ウィ~ン、ウィ~ン。


 コピー機が大閃光(めっちゃ光るサイリウム)のような光を上げている。

 そうだ、今のうちにチラシを貼る用のセロハンテープを買おう。

 そう思って棚に向かった時。


「地下ドルオタをなめんな(ボソッ)」


 見知らぬ女子高生二人組が、そう言ってオレの横をキャッキャと通り過ぎていった。


(……バ、バレてる~~~!)


 めちゃめちゃ顔バレてるじゃね~かぁ~……!


「ほら、やっぱそうだよ! 顔固まってるし!」

「ほんとに本人なんだ! ウケる!」


 ぉ……ぉぉぉ……なんで女子高生って生き物はこんなに残酷なんだぜ……。


 その後、レジの支払いの時にも店員に「あっ!」っという顔をされ。

 電車の中でもヒソヒソと指を差され。

 駅から学校までの間の電柱に張り紙を貼っている間は「おい、見ろよこの張り紙! 自分でネットでバズってるとか書いてんぞ、ギャハハハっ!」なんて背後からの声を聞きながら。

 なんか、もう学校に辿り着く頃には、オレは息も絶え絶えな状態になっていた。


「あら、白井くん、ギリギリね。もしかして張り紙をコピーしたり、貼ってる間に学校の連中たちに冷やかされて精神力を削られたりしたのかしら? それとも電車の中で指を差されてからかわれたのかしら?」


 教室に着くなり、いきなり野見山愛が声をかけてくる。

 週末に見せていたような清楚系な姿ではない。

 昭和な感じのティアドロップ型メガネをかけた、モサ子の野見山だ。


「なんだよ……そのまるでストーカーしてたかのような具体的な指摘は。ああ、そのとおりだよ。さんざん後ろ指差されたよ。っていうか、おはよう。まさか教室で普通に声かけてくると思わなかったらビックリだよ」


 そう返事をするも、前の方でクラスメイトたちがヒソヒソ話をしてるのが目に入って気まずい。


「あら、そう? だって……」


 ダンッ!


 押し出されたシャーペンの芯かのようにカチッと立ち上がった野見山が、後ろの壁にすごい勢いで足を立てた。


「の……野見山、さん?」


 教室がシンと静まり返る。


「ほら、こうやって遠巻きにコソコソ覗かれてると気分が悪いじゃない? だから、みんなが後ろを振り向かなくても聞こえるように、こうして大きな声で喋ってあげてるのだけど?」


 気まずそうに押し黙るクラスメイト達。

 おいおいおい、野見山。

 クラスメイトまで煽るのかよ。

 一体お前はどこまで『厄介度:SSS』なんだ。

 会うもの全てに斬りつける歩く暴走特急か、お前は。

 にしても綺麗だな、野見山の足、おい。


「で、白井くん。続きなのだけれど……」


 静まり返った教室の気まずさを気にもとめず、野見山が話を続けようとする。

 すると。


 ガラッ。


 教室のドアが開けられ、二人の女子が入ってきた。


「ウィ~、このクラスでいいんだよね~?」

「多分そうじゃん?」

「あ、もしかしてこいつ?」

「それっぽくね?」

「で、もう一人がこいつって……マジ! めっちゃイモ子じゃん! てかなに、そのメガネ!? ウケるんだけど! ギャグ!? ギャハハっ!」

「ふ~ん、でもスタイルと顔の造りはいいじゃん。猫被ってるならぬイモかぶってるって感じ」


 ギャルと姫カット。

 突然現れた二人が、陽キャオーラ丸出しで一気にまくしたてる。

 ギャルの頭の上に浮かんだ動員数は『47』。

 姫カットの方は『12』。

 いきなりの闖入者ちんにゅうしゃの登場に戸惑っていると、二人は続けてこう言った。


「うぇ~い! ってことでバズってる、そこの二人」

「ちょっと顔、貸しなよ」

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