第8話 開設、SNS!

「兄貴~! ど~ゆ~こと、これ!? なんでバズってんの!? しかもアイドルグループ作るってマジ!?」


 かしましくオレの部屋に飛び込んできたのは、うさみみパーカーを被った妹さらら。


「あ~……うん、っていうか、ちょっと黙ってくれる? うるさい」


 オレはベッドで枕に顔を埋めたまま、さららに塩対応をかます。


 あの後。

 日本一のアイドル霧ヶ峰リリに公衆の面前で喧嘩を売った後。

 オレは野見山愛の腕を引いて路地裏に逃げ。

 そのまま解散し。

 オレは駅を使わず徒歩で家へと帰ってきたのだった。


「兄貴、これ朝に来てた女の人でしょ!? この人とアイドルグループ作るの!? ねぇねぇ、兄貴! 彼女なの!? 彼女をアイドルとしてデビューさせるの!?」


 バフッ!

 枕を投げつける。


「っるっせーな! 彼女なんかじゃねぇよ! よくありがちなクソ地下グループと一緒にすんな! こっちはすげぇグループになるんだからな! なんてったって……」


『五億人動員するんだからな!』


 そう言おうとして口ごもる。

 オレたちは、天下の霧ヶ峰リリに喧嘩を売ったんだ。

 五億人どころか五人動員する前に終わるかもしれない。

 それどころか、霧ヶ峰リリの過激派ファンにリアルに消されるかも……。


「はぁ~……」


 威勢のいい言葉の代わりに出たのは、ため息。


「なに!? なんでため息!? ねぇ、せっかくバズってんだからアカウント作りなよ!」


「アカウント?」


「うん、まずSNSのポイッターでしょ。それから短編動画投稿サイトのピックポック。動画サイトのプーチューブに、動画配信サイトのピヨルーム」


「なんでそんな……まだ始まってもないのに」


「だって、もう偽物っぽいアカウント登場してるよ。多分アカウント転売業者のフォロワー集めだと思うけど」


「えっ、マジ!?」


「マジマジ」


 そう言ってウサちゃんカバーをつけたスマホ画面を見せてくる。

 そこに映っていたのは。


『ジョングカラー フォロワー数1,042』


「千四十二ぃ!? しかもジョングカラーじゃなくて『Jang Colorジャングカラー』だっつーの! 悪かったな、滑舌わるくて!」


 きっと、今アカウントを作ったら、霧ヶ峰リリと『飛鳥山55』のファンたちから非難轟々ひなんごうごうになるだろう。

 かといって、このまま偽物を野放しにしておくのも腹が立つ。


(う~~~……!)


 ってことで。

 とりあえず、アカウントだけは作っておくことにした。


「ちゃんと本物だってわかるような写真もアップしときなよ?」


 なぜかオレの部屋でくつろいでるさららが口を挟んでくる。


「あ~、今日着てた服とかでいいかな?」


「それよりも……」


 バッ!

 カシャッ!


「ちょ……なに……!」


「はい、兄貴の写真載っけといたから」


「なっ……! おま……勝手に……!」


 慌てて取り返したスマホの画面。

 そこには。


『Jang Color(本物) 本物です。証拠としてプロデューサーの写真を載せておきます。(撮影:妹)』


 という言葉とともに、オレの間抜けヅラが全世界に公開されてしまっていた。


「うおおおおお! やべぇ! スタンプスタンプ!」


 急いでスタンプで加工して顔を隠すも、目ざとく見つけたネットユーザーによって加工前の無修正画像がリプライで貼られている。


「うぉぉぉぉ……マジカヨ……終わった……もうこれオレ、ネットのおもちゃにされるのでは……」


「きゃはは、いいんじゃない? ほら、悪名は無名にまさるって言うし。地下ならなおさらでしょ?」


「お前なぁ~! っていうか悪名とか随分難しい言葉を知ってんな……って…………えっ?」


 オレは目を疑った。

 だって。

 たった今、作ったばかりのアカウントに。

 霧ヶ峰リリ(公式マーク付き)からダイレクトメッセージが届いたのだから。


「なに? 兄貴、どうしたの?」


「う、うるせぇ! お前、いい加減自分の部屋に戻れよ!」


「ぶ~! 兄貴のケチ~! お母さ~ん! 兄貴がネットで炎上してるんだけどぉ~!」


 階段をドタドタと下りていくさららを横目に、オレは震える指で霧ヶ峰リリからのダイレクトメッセージを開いた。

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