導かれるモノ導く者

van

少女





「つ…またか…身体がウズウズする…」

佳文は、公園に設置されてるブランコへ視線を移した。

小学生の高学年らしき少女がブランコに一人乗って俯いていた。


「ふぅ…どうしよう…声を掛ける?」

思い悩み、ゆっくりと歩き公園の中に入って行き

その少女が乗るブランコの横にあるブランコに乗った。

少女は、そのままの姿勢を崩さず佳文の方すら見なかった。


「…」

一呼吸置いて佳文は、少女に声を掛けた。


「お嬢ちゃん…どうしたの?」

少女は、なにも応えなかった。正確には、指一本動かさなかった。


「誰かを待ってるの?」

と佳文が聞くと「ぴくっ」と指が動いた。


「そうか…お父さん?お母さんを待ってるのかな?」

少女は、その言葉に反応したが、言葉は発しなかった。


「そうか…でも…こんな遅い時間に、お父さんもお母さんも迎えに来てくれるかな?」

佳文の言葉を聞き、少女は、肩を揺らし嗚咽しながら泣き出した。


「…ダメだ…言うな…」

佳文は、心の中で思った。が声に出してしまった。


「お嬢ちゃん、おっちゃんの家に来るかい?」

「…あぁ…言っちまった…また…繰り返すのか…」

佳文の病が顔を出してしまった。

しかし、少女は、佳文の言葉に頷いた。


「この公園から、少し遠いけど歩ける?」

と少女に声を掛けると少女は、頷いた。

佳文が振り向くと公園のブランコが小さく揺れていた。

公園から出た佳文と少女は、なにも話さず歩く

佳文は、少女の歩く速度に合わせて歩いていた。

少女は、他人の家を覗いたり、電信柱の地名を見たり、

道草をしながら付いてきた。

十数分程歩き、佳文の家に着いた。


「ここだよ」

そう少女に声を掛け、家の鍵を開けドアに付けた自分の髪の毛を剥がし

少女を、家の中へ招いた。

少女は、家の周りを見渡してから家の中へ入った。

佳文は、玄関のドアの鍵を閉め、自分の髪の毛を1本抜き

内側のドアとドア枠に渡し、抜いた髪の毛を貼り付け

佳文は、靴を脱ぎ少女と居間に入った。


「お嬢ちゃん座れる?」

立っていた少女に佳文が聞く


「コクっ」

と頷き少女は座った。


「汗をかいたから俺は、シャワーを浴びてくるよ」

「っと…その前に…飲み物はジュースでいいかな?」

「お菓子も…あったかな…」

テーブルに、ジュースとお菓子を置いて、佳文はシャワーを浴びに、

お風呂場へ向かった。


「はぁ…また…やっちまったな…」

そう呟きシャワーで汗を流し念入りに身体を洗った。

シャワーを浴び終えて、居間に戻った。

少女は、居間に座り佳文を待っていた。

ジュースとお菓子には、手を付けてなかった。


「もう、夜中だし俺は寝るけど?テレビ点けとく?」

少女は、佳文の言葉に反応しなかった。

居間の戸を開けて隣の部屋に、佳文は、布団を二つ用意した。

暫くすると少女は、居間から佳文の寝る部屋へ入り

並んで敷いた布団ではなく、佳文が寝る布団の中へ滑り込んで

身体をくっつけてきた。

つまらない深夜の通販番組の音とテレビの明かりが部屋を満たした。


朝になり、佳文は、ゆっくりと布団から抜け出し

朝食の用意をし食べた。

もちろん少女の分も用意し、テーブルの上に置き身支度を終え玄関を出た。

玄関のドアの鍵を開け、ドアとドア枠に渡し、張り付けた髪の毛を剥がし

ドアを開けて外へ出た。

玄関のドアを閉め、玄関ドアの鍵を掛け、佳文は自分の髪の毛を1本抜き

ドアとドア枠に抜いた髪の毛を渡し、貼り付け外へ出た。


「さてと…探して回るか…」家から道路へ出た。

少女が居た公園を中心に、螺旋状に歩いた。

たまにスマホを開き確認したりした。


「結構…歩いたな…」

佳文の自宅から直線距離で数キロの交通量が多い道路まで歩いてきた。


「数キロ×4×…だぞ…」

即座に計算は無理だった。


交通量の多い道路の歩道を進むと、40歳過ぎの夫婦が歩道に

献花をしていた。

この場所で身内の人を失くしたのであろう、


「おはようございます」

佳文は、ゆっくりと丁寧に挨拶をした。


夫婦は、視線を佳文に向けて、「おはようございます」と返した。


「突然の声掛け、申し訳ないです。」

佳文は、丁寧であって軽い感じの挨拶をした。


「いいえ」と夫婦は応えた。


「どなたか、お身内の方がここで?」

夫婦に、そう問いかけると


「えぇ…数年前ですが、この場所で娘を亡くしました。」

旦那さんが応えた。


「そうですか…私も…手を合わせて良いですか?」

佳文は、ゆっくりと丁寧に言葉を発した。


「そんな…よろしいのですか?」

奥さんが、申し訳ないさそうな顔をした。


「はい」と

佳文は、返事を返し、

ここへ来る前にコンビニで買った。ミルキーを袋から取り出し

お供えしをし、手を合わせた。


そのミルキーを見た。夫婦は「あっ!!」と大きな声をあげた。

手を合わせ終え立ち上がった佳文に夫婦は、


「どうして…ミルキーを…あの子が大好きだったお菓子を…」

驚いた顔をして聞いた。


「喉が渇いたから、ここへ来る途中のコンビニで、飲み物を買ってたら

ミルキーが目に入って懐かしさのあまり買ってしまいました。ハハハ」

「女の子ならミルキーが好きかな?とお供えしてしまいました。」

「すみません」

夫婦は、この子の好きなお菓子を、思い出せたと喜び

経緯を話してくれた。


「私共の家は、この先でして」

夫婦は、自宅を指差し、佳文に教えた。


「あの日、愛子は公園に友達と遊びに行くと言い出かけました。

いつもは、明るい時間に帰って来るはずが、暗くなっても戻らないので

心配した。私達が迎えに行くと、そう…この場所は今では中央分離帯がありますが

あの頃は、中央分離帯も無い道路で反対側の道から私達を見つけた愛子は…

右左も確認しないで道路へ飛び出し走って来た車に…交通事故に…

はねられた愛子は、この場所に倒れ…即死でした。」

夫婦は、丁寧に佳文に説明した。


「この写真が愛子です。」

奥さんは、娘の写真を見せてくれた。


「名前の様に愛らしいですね」

佳文は、そう言い、続けて訊いた。

「明日、お宅にお伺いして手を合わせても宜しいですか?」と


夫婦は、顔を見合わせて驚いた顔をしたが

「はい」と答えた。


「ありがとうございます。明日10時頃、お邪魔します」

そう伝え自宅へ向かった。


「そうか…あの子は、愛子って名前なんだな…交通事故か…

お父さんとお母さんが道の反対側に居て、愛子ちゃんは

車に来た方向へ跳ね飛ばされて…家に帰る意識も跳ね飛ばされて

それで…家を忘れ家に帰れなくなって公園に戻ったのか…

可哀そうに…」


佳文は、愛子が公園から家に向かったであろう道筋を歩いてから家に帰った。


「ふぅ…結構歩いたな」

そう呟き、玄関の鍵を開け、髪の毛をドアから剥がし家の中に入った。

玄関のドアの鍵を閉め、自分の髪の毛を1本抜き

内側のドアとドア枠に渡し、抜いた髪の毛を貼り付け

「ただいま」と言い振り向くと

愛子ちゃんが、俯いたまま玄関に迎えに出て来た。


「あ…」

愛子ちゃんの名前を口にしようとしたが留まった。


「あっ…一人で大丈夫だった?」

愛子ちゃんは、頷いた。


「お嬢ちゃん食べ物は、何が好きかな?」

「ハンバーグ?」

「魚?」

「俺が…子供の頃…好きだったモノは…なんだっけ…」

「ラーメン…いや…偏食か!!」

「オムライスは?」

愛子ちゃんは、頷いた。


「オムライスが、好きなんだね!! 

愛子ちゃんは、頷いた。


「オムライスにするか!!」

「よ~し、俺はオムライス作るの上手なんだよ

そこに座って見ながら待っててね」

佳文は、椅子を指差し、愛子ちゃんは椅子に座った。


「子供の食べる量って…どれぐらいだ?

俺が食べる量の半分位でいいかな…ご飯は、炊けてるな

タイマーで炊いてて正解だったな」

「玉ねぎは、みじん切りにして…」

「お嬢ちゃんは、ピーマン大丈夫かな?」

愛子ちゃんは、頷いた。


「大丈夫なのか、いい子だね」

声は聞こえなかったけど、愛子ちゃんは、笑ってる様だった。


「玉ねぎを炒めて…切ったソーセージとピーマンを加えて炒めてっと

コンソメを加えてケチャップを入れて~塩コショウ~♪

ご飯を炒めて最後にバーターを入れて混ざったら~

玉ねぎ、ソーセージ、ピーマンケチャップを~

炒めたご飯と混ぜますよ~すると、どうでしょう♪

ケチャップご飯が完成です」


「卵を2個割って、入れ物に入れて混ぜ混ぜ~♪

フライパンを熱くし油を入れて、溶いた卵をフライパンに入れる~

さぁて、ココからが難しいよ~卵に火が入り過ぎない様にして

ケチャップご飯を投入だぁー!!フライパンを~ゆっくり動かして

お皿の上に、フライパンを斜めに向けて裏返す~と!!

あら?不思議オムライスの出来上がり~パチパチパチ!!」

愛子ちゃんの身体が、小刻みに揺れて、それは、笑っているのだろうと

佳文は感じた。


ちなみに、自分用のオムライスは…卵がひび割れ失敗してのはココだけの話


「お嬢ちゃん、明日は、お出かけしてみようか?」

愛子ちゃんは、頷いた。

その夜も、愛子ちゃんは、佳文の布団に入ってきた。


翌日の朝、

佳文は、朝からオムライスを作って、そのオムライスをタッパーに入れた。

愛子ちゃんは、その様子を佳文の横に立って見ていた。


「これは、お出かけの、お弁当だよ」

そう言うと、愛子ちゃんは、うんうんと頷き嬉しそうだった。


「さてと、いい時間になったし出かけようか?」

佳文は。愛子ちゃんに声をかけた。愛子ちゃんは頷き二人は、玄関へ向かった。

愛子ちゃんは、玄関で後ろを振り返り家の中を見回していた。

佳文は、玄関のドアの鍵を開け、ドアとドア枠に渡し、張り付けた髪の毛を剥がし

ドアを開けて外へ出た。

玄関のドアを閉め、玄関ドアの鍵を掛け、佳文は自分の髪の毛を1本抜き

ドアとドア枠に渡し、抜いた髪の毛を貼り付け、二人は外へ出た。


「いい天気だね」

そう言い、佳文は愛子ちゃんに笑顔を向けた。

下を向いたままの愛子ちゃんが、少しだけ顔を上に向けた。


「お嬢ちゃんに、少し触れるよ?いい?」と声をかけ、

佳文は、抜いた自分の髪の毛を愛子ちゃんの髪の中へ入れた。


「よし、これで昼間でも、お嬢ちゃんが見れる」

太陽の光に当たると、愛子ちゃんの様な人は、見え辛くなるのだった。


「ゆっくり、となりを歩くからね」

そう言い、家を出て二人は歩き出し

愛子ちゃんと会った、公園が見えてきた。

公園の横を歩き、ブランコが、佳文の目に入ったが、

愛子ちゃんは、気にせず公園横の道を進んだ。

1ブロック先に、交通量の多い道路が見えたが

佳文は、手前の交差点を曲がり、横断歩道がある道へ向かった。

愛子ちゃんは、気にもせず、佳文の、となりを歩き

交通量の多い道路まで進んだ。青になった横断歩道を渡り

愛子ちゃんの家の近くまで来た。

佳文は、足を止め、愛子ちゃんを見て


「もう少しだからね」

と声をかけた。

小さな交差点を曲がると、愛子ちゃんの両親が家の前で

佳文が来るのを、待っていた。

その姿が見えたのか、愛子ちゃんは、手を広げ両親の間に向かって

駆け出した。

両親の間を通って家の中へ入って行った。


「愛子?」

両親は、同時に叫んだ。

「今…愛子が通ったわ…」

奥さんが言った。


「あぁ…わざと二人の間を通る…なんて…愛子」

旦那さんは、唇を震わせ、絞るような声を発した。


「おはようございます」

佳文は、普通の挨拶をした。


「あぁ…おはようございます」

我に返った両親は、挨拶を返した。


「どうかしましたか?」

そう佳文は、声をかけた。


「いえ…今、懐かしい感じが…いや…あの子が…愛子が…帰って来たような感じがしました」

「可笑しいですね…笑ってください」

愛子ちゃんの両親の目は、うるんでいた。


「そうなんですか…」

佳文は、わざと不思議そうな表情をした。


「立ち話も、あれですから、どうぞ」

そう促されて、愛子ちゃんの家にお邪魔した。


「どうぞ、愛子の位牌は、こちらです」

佳文は、仏間に通され仏壇にお参りをして


「お供え物を…よろしいですか?」

両親に、聞くと


「お気を回さずに…」

と言われ


「気持ちのモノですから、私が帰った後は、処分してください」

そう、伝えた。


仏間から出て応接間で、お茶を出された。

なにも話さない時が、数分続き

佳文は、ふと思った。愛子ちゃんは何処へ行った?と

すると2階から、「コトンっ」と音がした。


「愛子の部屋からだわ…」

奥さんが天井を見上げる


「なんで音が…」

旦那さんが、ソファーから立ち上がる


「ご一緒しても?」

佳文が聞くと 


「そうですね…愛子の部屋も見てもらいましょうか…」

そう旦那さんが言う


「愛子の部屋は、あの日のままにしてあるんですよ…」

階段を上がりながら、奥さんが教えてくれた。


「コンコン」

旦那さんが、ドアをノックして

「愛子入るよ」

と声をかけて、ドアを開いた。

すると床の上に、人形が落ちていた。


「置いてあった人形が落ちたのね…」

奥さんが人形を置いてあった場所に戻した。


「お部屋を、キレイにしてありますね」

佳文は、部屋を見渡した。

ベットの上には、愛子ちゃんが、ちょこんと座っていた。

笑いながら、こちらを見ている様に、佳文には感じられた。


「さて、長居してもなんですから、そろそろ帰ります」

そう言うと


「お参りして頂き、ありがとうございました」

愛子ちゃんの両親が玄関まで見送ってくれた。

玄関のドアを閉めて、愛子ちゃんの部屋を見上げると

笑顔の愛子ちゃんが手を振っていた。


「俺も…まだまだ甘いな…その時になったら…」








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