vs20 ユークレースの気遣い

 何故か、中庭のガゼボに来るとユークレースは透明化インビジブルとバリアを掛けて防音シールドを張る。

「これで、誰も近寄っては来ないし誰かが貴女と俺が長い時間2人きりだ…と、噂にしたりしないと思うが…どうかな?」

一応、婚約者が居るので気を遣ったのだが…マリミエドはクスクスと笑う。

「やり過ぎですわ。インビジブルは解いて宜しいですわ」

そう言ってベンチに腰掛けた。

「あ! 気が効かなくて済まない…」

そう言いユークレースはハンカチを取り出して反対側のベンチに置く。

「良かったら、こちらに」

「…ふふ、ありがとう」

マリミエドは好意に応じてそちらに座り直した。

代わりにユークレースがマリミエドの座っていた方に座る。

「…何から聞いたらいいか…何故、魔法を?」

「あの…早く浄化しなくては大変な事になると思って、焦ってしまいましたの。ごめんなさい! 授業の妨害をするつもりは無かったの…」

「あ、いや授業はいいんだ。何故〝浄化〟を?」

「その…」

〝マリアがポーションに毒のようなものを入れた〟などと言えない。

毒ではないかもしれないし、本人が違うと言えばそれまでで、証明が出来ない。

「ポーションを浄化しなさい、と風の精霊が教えてくれましたの…そう、きっとお兄様が遣わせて下さったのですわ!」

兄がポーションの毒を知らせてくれた事にすればいい、と思い付いてマリミエドは考えながら喋る。

「ギルベルトが?」

「ええ。ポーションが劣化しているようだから急いで浄化するように、と…。そこで本で見た浄化の仕方を思い出して、授業のように〝擬似的〟に作り出そうと必死でやったら、あんな事に…先に言わなくて本当にごめんなさい」

そう言いマリミエドは頭を下げる。

ユークレースは手のひらを向けて眉をひそめて言う。

「謝らなくていい。確かに、浄化するのを見ていたから信じるよ。…しかし、そうか…疑似浄化をその場で…確かに、神聖力は使っていなかったな。大したものだ」

そう言ってユークレースは微笑む。

その笑顔にドキッとしながらも、マリミエドは手を口元に当てて照れを隠す。

「い、いえ…本で読んだから思い付いただけで…きっとアーダルベルト令息でしたら、簡単に出来ましたわ」

「謙遜を。…うん、確かに授業前に何か言い掛けてたな…聞かないで済まない」

マリミエドが話し掛けてきていたのを思い出して、ユークレースは謝罪した。

「いえ、誰も怪我をしていなかったのが幸いですわ」

そう言い微笑むマリミエドを見て、ユークレースもドキッとして頬を赤らめて拳で軽く胸を押さえる。

〈…俺も、あいつらの仲間入りか…?!〉

まさか自分は女に熱を上げたりしないと思っていたので、ユークレースは自分を疑う。

〈いやいや、気のせいだ〉

そう自分を誤魔化して立ち上がる。

「メイナード令嬢、話してくれてありがとう。この事は俺から学院長に話しておこう。君は教室に戻りなさい」

そう言って手を差し伸べる。

「はい、宜しくお願いしますわ」

マリミエドはその手を取って立ち上がり、途中までのエスコートを受けて、互いに会釈をして別れた。

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