vs07 食事と会話

そんなマリミエドを見ながら、ユークレースは首を傾げた。

〈…何かが阻害しているのだろうか?〉

回復などの神聖力や魔力の素となる精霊力に何ら問題は見受けられないが…何かの呪いの類なのか、〝蓋〟があるようなイメージだ。

何か、きっかけでもあれば発動出来そうな気はする…。

「…毒素も消せるようだが…」

ユークレースは聞きながら通り掛かったスープを乗せたワゴンを押すメイドを引き止め、コーンスープの入った皿をマリミエドの側に置く。

「他にもそういう方はいらっしゃいますわ」

マリミエドはそれを受け取って飲みながら、淡々と答える。

「く、くく…」

すると急にユークレースが笑い出す。

「なんですか?」

マリミエドがサラダを食べてから聞くと、笑いながらユークレースが言う。

「結構食べるんだな~と思ってな」

「あ…」

いつの間にか、残りはデザートだけになっていた。

マリミエドは赤くなりながら言い訳にならない言い訳をする。

「お、お腹が空いていただけです」

「よく食べる女性は好きだが。紅茶のおかわりでも持ってこようか?」

「い、いえ自分で…」

そう言い立ち上がろうとすると、ユークレースの友人のクリフォード・フレーズベルグ辺境伯令息が紅茶のセットをワゴンで運んできてマリミエドの隣に来る。

「お隣、宜しいかな?」

「え、ええ…あ、注ぎましょうか?」

「いやいや。紅茶を注ぐのは好きなんだ」

そう言いクリフォードはユークレースとマリミエドと自分の紅茶を注ぐ。

「…あの、わたくしお邪魔ですか?」

「いやいや、男だらけで座るよりいいさ。ユーク、今日の植物学のテスト、おかしくなかったか?」

「ああ、セタイルの毒素がヘレテルより少ない、となっていたな…メイナード令嬢はどう思う?」

ユークレースに聞かれ、マリミエドはケーキをもぐもぐと食べながら、口元を手で覆いながら答える。

「ヘレテルにはそもそも毒素なんてありませんわ。あれはセタイルやキアロイゼの毒を中和する薬草として用いる物ですもの」

「やっぱり優秀なのは本当なんだな」

感心してクリフォードが言う。

「それに、噂ほど堅苦しくない」

ユークレースの後ろからやってきたレアノルド・ヴァルムント伯爵令息がそう言い、ユークレースの隣に座りながらマリミエドを見る。

「堅苦しい? わたくしが?」

「ああ、そんな噂があってね。飛び級で王太子を追い掛けてきた婚約者は、笑いもせず泣きもせず、面白い話一つしないらしい…と、カイラード殿下から聞いたが」

「カイラード殿下が?!」

マリミエドが驚いて聞くと、レアノルド令息が苦笑して言う。

「いやいや、カイラード殿下は、そう兄君から聞いたので、仲が良くないのを心配しているとね」

「そ…れは…」

使える‼

咄嗟に思った。

王太子がそう言いふらしているのならば、それを利用してこの者達と親しくなればいいのだ。

婚約者がいても、他の男性と親しく話すのは〝婚約相手に嫌われているからだ〟という言い訳になる。

「わたくしはそう言われる程、王太子殿下とお会いしておりませんけれど」

思わず本音を漏らすと、3人の令息達は微笑する。

「そう怒らないでくれ。あくまでも噂だったんだ。君は、素直で可愛らしいんだな」

そう言いレアノルドはフキンでマリミエドの口の端に付いたクリームを拭いてやって笑う。

「妹と同じだ」

「い、妹君は13歳ではないですか! 同じにしないでくださいませっ」

真っ赤になって言うと、ユークレースとクリフォードも笑う。

マリミエドが同学年でも、年下だからこそ、可愛い言動に思うのだろう。

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