vs02 回帰

「絶対に王太子妃になんてならないわ‼」

そう大声で叫んで飛び起きた。

「え…? あら…?」

生きてる…?

〈生きてる⁈〉

マリミエドは慌ててベッドから降りて化粧台の姿見を確認した。

確かに、生きている。


長い銀髪もそのままある。


手足も汚れてはいない。


しかし、自分がどこか幼く感じた。

そこに、侍女のエレナがノックしてきた。

「マリミエドお嬢様……まあ、素足で歩かれるなんて、淑女らしくありませんわ! 一体どうなされたのですか?」

「エレナ…わたくし、今何歳かしら………」

聞きながらベッドに座ると、エレナはマリミエドの足を拭きながら答える。

「十四歳でございましょう? 特別進級なさって、今日から3年生ですね。緊張なさいまして?」


  一年前⁈


あの断罪ムカッとイベントの一年前‼


「…待って…エレナ……わたくし、無理よ…」

「え? お、お嬢様⁈」

エレナはギョッとしてオロオロとした。

マリミエドが顔を両手でおおって、泣き出してしまったのだ。

英才教育を受けてから、一度も人前で泣かなかったマリミエドが。

その日は、侯爵の許しを得て学校を休んだ。

〈一年後には、わたくしまた斬首されますの…?〉

そもそもこれは夢なのか?

あれが夢だったのか?

どっちが夢か分からない。

〈誰に相談したら…〉

そもそも、相談できるような相手がいるのだろうか?

混乱して、その日は泣き疲れて眠ってしまった。



「ーーーよってお前を、斬首刑に処す!」

いや…

「皇族侮辱罪、窃盗罪、並びに強盗罪、大衆扇動など! 数え切れん罪だな。さあ首を出せ!」

ーーーえ?

強盗? 大衆扇動⁇



〈ーーーあ‼〉

夢から覚めてマリミエドはガバっと起き上がる。

〈これで2回目だわ…〉

何故かは分からないが、この記憶が確かなら、マリミエドは2回首を刎ねられている。

以前は、エデュアルト王太子に愛されようと頑張ったものの、やはり天使のマリアに嵌められたのだ。

どこが天使なのか知りたい…。

愛想がいいから?

親しい喋り方で、他人の婚約者をベタベタ触って?

〈わたくしも、ああしてみたら…〉

ああしてみて、この結果なのだったーーー。

慣れない事をするものではない。

〈でも、何故一年前なのかしら? せめて5歳からの方がやり直せるのに…〉

何かの呪いにでも掛かったかのように、3回とも3年生になる日から始まっている。

〈…今日に、何かがあるの…?〉

そうとしか思えない。

今日の出来事を変えれば、もしかしたら斬首刑はなくなるのではーーー。

せめて、回避したい。

そう思いハッと思い立って、マリミエドは本を片手に制服に着替える。

「エレナ! 馬車を用意して‼」

「え?! あ、はい!」

異例の3年生となるこの日は、確かこの大衆小説では窃盗事件が起きるのだ。

何故かは分からないが、小説と現実の出来事が重なっている。

大衆小説では、サンリエド高等学校の大切な物、とだけ表現されている。

だがそれを現実に置き換えると皇后陛下がサンリエド高等学校に展示させている「天使の涙」という七色に輝く宝石が盗まれるという大事件と重なるのだ‼

〈これを、わたくしが阻止すればいいのよ!〉

マリミエドは、前向きで諦めを知らない性格だった。

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