【少年・2】

 両親から愛されない少年が、心のよりどころとしたのは、二人の弟の存在だった。


 上の弟はおとなしく、素直な性格をしていた。

 下の弟はやんちゃで、頑固なところがあった。

 

 少年は二人の弟からとても慕われていた。

 二人はいつも兄から笑みを引き出そうと、ひっきりなしに喋り、夜はどちらが兄と同じ部屋で寝るかで言い争った。

 

 少年の心を唯一癒すのが、弟たちの笑顔だった。


 あるとき、上の弟が尋ねた。

「今度の旅行、どうしてお兄ちゃんだけ留守番なの?」


 下の弟も不思議そうに首を傾げた。

「この前遊園地行ったときも、お兄ちゃんだけ留守番だったよね? なんで?」


 少年が答えあぐねていると、母親が割って入り、弟たちをたしなめた。

「お兄ちゃんはもう旅行や遊園地で喜ぶ歳じゃないからよ」

 

 そうよね?

 強制するような母親の圧に押され、少年はぎこちなく頷いた。

「そうだよ。二人とも、お兄ちゃんのことは気にせず、旅行楽しんでおいで」


 母親が口出ししなくとも、少年は元より取り繕うつもりでいた。

 兄として、惨めな姿を弟に見せるわけにいかない。

 家族という単位に、兄の自分は含まれていないのだと、弟たちには決して勘付かれてはならない。


 彼らにはただ、屈託なく笑っていてほしい。

 

 無邪気に甘える弟たちを眺め、少年は思う。僕はお前たちと違って、親から愛してもらえない子なんだよ。


 しかし以前のような寂しさは感じなかった。

 両親から好かれたい、大事にされたいという願いは、いじましい努力と挫折の日々とともに、すでに過去のものとなっている。


 このかわいい弟たちさえいてくれたなら、親の存在などどうでもよかった。

 例え両親が死んだところで、自分は涙も流さないだろう。

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