第9話 占い師

 帰りの電車で多岐川はスマホに入って来たmikadoという不審なメールの話を岡崎にした。岡崎は少し考えていたが自分のスマホにも同じものが入ってきていると言った。ただの迷惑メールと無視していたが今となっては無視できなくなった。

「多岐川さんメールの中身見ました?」

「ああ、岡崎さんは?」

「私、知らないメールは開かないで、そのまま消すんです」

「それがいいかもしれない。岡崎さんは、ここ最近、変な男を見たことある?」

「変とは、どういう基準ですか? 会社にも変な人たくさんいますけど」

「なんというか、この世の者ならざる者みたいな」

「どうして、この世の者ではないと思うのですか?」

「それは、その服装なんかが、時代が違う様な……」

「ないです」

「そう、それはよかった。やっぱり、その迷惑メール開かず消すのが正解かもしれない」

「軍服の男の写真が添付されているからですか?」

「え! 見たの?」

「いえ、やっぱりそうなんですね。友人の和美が言ってたんです。そんなメールが送られてきたら開かずに消した方がいいって」

「……」

 多岐川は言葉を失った。

「見たんですか? 堂場総司どうばそうじ

「その名前……」

「和美が言ってたんです」


 駅に着いた。改札を出て占い師がいつもいる所に向かう。小さな本屋の前に占い師の女性は眠る様に下を向いて座っていた。

「岡崎さん、ここで待っていて。さっきも言ったけど、もし犯人だったら危ないかもしれない」

「はい。でも多岐川さんは大丈夫ですか?」

「ああ」

 数軒手前の雑貨屋の前で何かを見るような素振りをして岡崎が待つ。

「こんにちは」

 多岐川は占い師に声を掛ける。

 フッと顔をあげ微笑む占い師。

「あら、こんにちは、この前の……ミカドが現れたようですね」

「え、いえミカドは現れていません」

「ああ、堂場どうばが現れたのですね」

「え?」

「彼女も来ればいいのに」

「え」

「あそこの雑貨屋さんの前にいる彼女」

 多岐川は驚きと不信感と恐怖が入り混じった不思議な感覚に陥った。

「あの女性は関係ない」

「そうかしら。同じ会社の方じゃないかしら」

「え?」

「私は占い師ですよ。今日あなたが会社の女性とここを訪ねてくるのわかってたんですよ。昨日の事件のことで」

「な、なんなんだ。化け物か」

「占い師ですよ。本物の、本物はこんな感じですよ」

「……」

「私は堂場どうばとは関係ありません。それより彼女を」

 多岐川は迷ったが、そこまでわかっているのなら、彼女を呼んでも同じことだと思った。岡崎に説明すると驚いていたが、彼女も同じように思ったのか、占い師のところにやって来た。

「どうぞお入りください」

 占い師は店の前を片付け小さな書店の中に案内した。本の売り場を通り抜け奥の少し広い部屋に通された。


「あ、多岐川さん」

 驚いた。そこに、あの神谷という学生が座っていた。

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