第6話 異変

 次の朝、多岐川は会社で同僚に、昨日のことを話してみた。

「帰り道、綺麗な占い師に会ってね。前を通ると『ミカド』が復活するとか言うんだよ」

「なんだそりゃ」

「わからないが、昭和100年に『ミカド』が復活するとか……」

「綺麗な女性が急に声を掛けてきて『昭和のミカド』が復活するって言ったの? 新しくできる風俗店か何かじゃないの。昭和風のレトロな風俗店『ミカド』……新しくできる風俗店の客引きかなんかだよ」

「そういうことか」

 そう返したが、どうもそんな風に思えなかった。


 隣で聞いていた岡崎美保おかざきみほという女性がにらむように見る。

「いやらしい」

「いや、そう、言われただけで」

 多岐川が慌てて反論しようとしたが、岡崎は無視するようにパソコンの方に目を移した。


 その日の帰りの電車で多岐川が、いつものようにスマホを見ているとメールが何件か入っている。迷惑メールが数件。片っ端から消していく。

その中に一件、見慣れないメールがある。


『mikado』

 このタイミングで気にならないわけがない。


 あの占いの女性からだろうか……いやいや、私のアドレスを知っているはずがない。メールを開いてみるか……いや、これを開くと面倒なことになるかもしれない。

いろいろな考えが頭の中を巡る。


 結局、メールを開いてみた。


 そこには一枚の写真が添付されていた。メールを開くと同時に写真が映し出された。

 それは見たこともない風景の中に一人の男性が写った写真だった。


「なんだ……これは」

 思わず言葉を発してしまった。


 隣に座っていた男性が覗き込むようにスマホの画面を見た。

 同時に私と目が合い気まずそうに微笑み「すみません」と言って彼は自分のスマホに目を移した。


 もう一度、その写真を見る。

 日本なのだろうか? しかし、何かおかしい、まるでひと昔、いや、かなり前の明治か大正のような風景に軍服を着た男の写真が写っている。

 なんだか気持ちが悪いと思いメールを閉じた。

 隣に座っていた男が席を立ち電車から出て行った。しばらく、駅のホームを眺めていると、やがてドアが閉まり電車が動き出す。


「あ」

と思わず声が出てしまった。

 駅のホームの端に軍服を着た男性が立っているのが見えた。一瞬、多岐川と目が合ったように思った。メールの写真の男だ。

 いや、はっきりとは分からなかったがそんな気がした。


 なんなんだ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る