第7話:センパイも、やっぱり男の子だね

「あーあw あんなに嫌がってたくせに、結局やりたいんじゃん。堅物そーなセンパイも、やっぱり男の子だね♪」


 性の話題が嫌いだ。


 性的なことが怖い。


 ただずっとそう思ってきたが、考えてもみれば、知らないことは何でも怖い。


 ――興味があっても、知らないことは怖い――


 ずっと引っかかっていた言葉だった。


 たしかに、知らないものを経験しようとするには、それなりの気力とリスクが必要なのだ。



 エッチを、異性という存在を、これほど崇め嫌悪するようになったのは、どうしてだろう。


 思えば、昔から性的な事柄は一緒くたに、ダメだと言われて育ってきた。


 まだ早い、の一点張り。


 性は汚らしいもの。


 性行為はしてはいけません。


 自分たちだってしていることを、蔑むように言われ育ってきた。



 にくい。


 ずるい。


 悔しい。


 苦しい。


 劣等感で何をしても自信が持てない。


 言い訳を探して、やらない理由付けをする。



 ワンナイトだって、している人がいるから、そういうワードが生まれたのだろう。


 たった三十分話しただけの、名前も知らない子が初めての相手なんて……。


 棚ぼたみたいで嬉しい反面、正直いってリスクが怖い。


 陽キャはいろいろな人と遊んでそうだし、性病とか。


 一発ヤって、HIVに感染でもしたら、一生、たった一度の過ちを後悔することになるだろう。



 やりたいのに、やりたくない。

 

 自分より年下の女の子にさえ、性的に劣っている。


 こんなかわいい顔して、たくさんの経験をしているのだろうなぁと思うと、悔しくて、ズルくて、やるせない。


 この怒りと嫉妬と後悔と絶望がない混ぜになって、いつも心がグチャグチャになる。


 そのくせ、性的なことには興味があって。


 自分はなんて欲深い、ワガママな生き物なのだと、自分も他人も、世間が、息をして存在していることが嫌になる。


 今まで自分は何をやってきたのだと。


 みんなが当たり前に経験していることを、自分だけ経験していないなんて、なんて恥ずかしいことなんだ。


 生き恥を晒している。


 もう、何もかも嫌になる。



「怖いんですか、先輩」


 耳元で囁かれる。


 手のひらは、胸元に押し当てられていた。


 コートでほとんど分からないが、確かな膨らみがそこにはあった。

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