秋月さんの人脈大革命 10

 「そっか」


 やっぱりそうだった。そうだったけれど。ふつふつと違和感だけが湧いてきて、それはどんどんと留まることなく肥大化していく。

 この違和感の正体はなんなのだろう。

 うーん。

 少し考えてみると、すぐに答えに辿り着く。自分でもびっくりするくらいすぐに。

 輿石は女性を好きになるようなタイプではないということだ。男が……というよりもカッコいいものを好む傾向にある輿石が、女性を恋愛対象として見るという性的指向の持ち主とはどうも思えない。

 人間外面だけじゃ中身なんてわからないよ、と言われればその通りなのだけれど。


 「その意図は?」


 別に恋人の形にとやかく言うつもりはない。男女で付き合う。それだけが恋人の形だとは思わない。

 ただ、あまりに脈絡のない告白。そしてなによりも、出会ってから告白まで早すぎる。

 私が友達だと認識できた間に、輿石は好きという恋愛感情を芽生えさせて、花を咲かせたことになるのだ。

 男女間の恋愛であったとしても早すぎる。少なくとも私はそう思う。

 多分この三つが私の抱いた違和感の正体だろう。

 さらに付け加えるのなら、お願いと言いつつしてきたのは告白であるということかな。

 近しいようで遠いような気がする。これは私の受け取り方次第な気もするから、要素として加えないけれど。


 「打算的でしょ。この告白」

 「ああ、まあそーだよな。わかるよな」


 輿石はハハハと苦笑気味に笑うと髪の毛を触る。

 あまり隠すつもりもなかったのかあっさりとした反応だ。


 「なんでか……まではわからないけれどね」

 「これもコイツらと同じなんだよ。コイツらとね」


 輿石は金色の髪の毛をくるくると人差し指に巻きつつ、さっき開けたピアスの穴を強調して見せ付けてくる。


 「はあ……」


 イマイチ意図が掴めない。髪の毛やピアスと同じなのかな。

 ふーん、うーん、ほーん。


 「わかんないや」


 お手上げですと私は両手をあげる。

 白旗があればそれも一緒にあげたかったが、代替品が存在しないので諦めた。


 「これは校則違反だろ」


 と言いながら金髪を見せてくる。


 「そうだね」


 私はコクリと頷く。


 「こっちも校則違反だろ」


 次にさっき開けたピアスの穴を見せてくる。


 「そうだね。その通りだね。金髪はもちろんのこと、そのピアスの方も言い逃れができないくらいの校則違反だね」


 私はまたコクリと頷く。

 その反応を見てから、輿石はさらに言葉を続ける。


 「さらに校則違反を重ねたいってわけよ。恋愛という違う方面のアプローチって言えばいいんかな。ファッションとは違う形の校則違反からさ」


 そういえばそんな校則あったなあと思う。

 女子校だからあんまり気にしていなかった拘束だ。恋愛禁止。入学式の時、豊瀬先輩が言っていた。

 ああ、そう言えばあの時はめっちゃカッコイイ先輩だと思っていたのになあ。良い人に違いはないのだけれど。

 と、関係ないことで物思いに耽る。


 「だから付き合って欲しいってわけ。もちろん本気のお付き合いじゃない。あくまで形だけの恋愛関係ってこと。ただ、目立つためだけのことだったから。真の目的だから秋月は知らん方が良いだろーなって思ったんだよ」


 輿石なりに慮った結果なのだろう。

 私を陥れようという意図は一切なかった。少しでもそういう気持ちがあったのなら怒るべきなのだろうけれど、そういう気持ちは一切感じられない。だから、怒るのはお門違いな気がしてしまうし、そもそも怒りが湧かない。甘すぎるのかな。


 「嫌なら断って欲しいってのもそういうこと。本気の恋愛関係じゃないから、嫌ってことなら断っても良いし。アタシとしては本気で付き合うのもやぶさかではないんだけどな……。とにかく目立つことになるし、秋月も『女の子が好きなんだ』って周囲に思われっから、嫌なら断って良いよ。アタシから見ても、この提案を秋月が受けるメリットってないと思うしさ。アタシが秋月の立場なら多分断ってんもん。そんくらいには秋月にメリットがねぇ。デメリットだらけ」


 それはその通りだ。

 私にメリットなんてない。ほとんどない。

 輿石は色々とデメリットになりうるものを列挙してくれたが、私自身がデメリットだと感じるのは目立つこと。それだけ。まあ、それだけがあまりにも大きすぎるんだけれど。

 それにもう言っちゃったからなあ。手伝うことになるんだって。

 私の小さなしょうもないプライドが叫ぶ。お前、あんなこと言っておいて断るのかと。断るんじゃねぇーよ、と。

 だから、私は決める。


 「わかった。手伝うよ」

 「ほんと、マジ、本気で良いの」

 「そのつもりだけれど」

 「目立つよ。めっちゃ目立つと思うよ」

 「それくらい重々承知だよ」

 「本当に良いのか?」

 「逆に嫌なの?」

 「そういう……わけじゃないけどさ」

 「なら、良いじゃん。それに目立つだなんて、輿石関連なら今更だよ。どうせ周りからは『まただ』って思われるだけだし。なんならなーんにも思われないかも」


 輿石の近くにいる人というイメージが定着しすぎて、これくらいのことじゃ目立たないんじゃないかとさえ思うのだ。なんならスルーさえ有り得る。


 「それに恋人のふりしてれば良いだけでしょ」

 「そうだな」

 「なんか、楽しそうじゃん」


 結局その言葉に集約される。

 こうして私は、輿石樹里という一人の同級生の女の子と恋人のフリをすることになったのだった。

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