第21話 「チェイスとクラリス」

 25日は朝から、ウィンフィールドの街まで行き教会で祈った。


 教会に入れたし、聖水に手をつけても何の反応も無かった。クラリスはずっと半信半疑だったことをようやく確信した。クラリスは悪魔憑きなどではなかった。


 人が大勢いて落ち着かなかったが、教会に入れたことが嬉しくてクラリスは涙を流した。


 クラリスは屋敷に戻ってくると、セオドアを連れてチェイスと一緒に馬場へ向かった。チェイスから乗馬を習う為だ。と言っても1人で乗るのは危険が伴うため、チェイスに後ろに乗ってもらい、サポートしてもらうことになった。


 クラリスは手綱を握り、馬場を何周かして慣れてきたところで、湖畔を散策することにした。


「クラリス、私は君を蔑ろにしてしまったことをずっと悔いている。君から許される日が来ることを祈っているけれど、クラリスに何かを強制しようとは思わない。君は心のままに、思う通りに過ごして欲しい」


 クラリスは小さく頷いた。


「君が私の妻になって2年半、1年半前から君と会話を交わすようになって、私は君の優しさに惹かれていった。最初は罪悪感から会いに行っていたけれど、今では君に会いたくて別邸へ行っている。私は君が好きだ、クラリス。今の素直な気持ちを聞かせてくれるか?何を聞いても怒らないと誓う」


 クラリスは言葉に詰まりながらも心の内を吐露した。「——気遣って下さっていることに、とても感謝しています。こんなにもご厚情をかけて頂いて良いのだろうかと恐縮してしまうほどです……レイチェルは私の言葉が辛い結果を招くことになったとしても、本心を話した方がいいのだと私に教えてくれました。だから率直にお話しします」


 ぽつりぽつりと話すクラリスにチェイスは心が締め付けられた。クラリスが何と答えるのか頭では分かっている。クラリスの優しく純粋な心に、チェイスの汚れた邪な心は似合わない。頭では分かっているのに、心がついていかない、もしかしたらと思ってしまう。


「伯爵様は私を最初から嫌っておいででした。私には嫌われることをした覚えがありません……会話を交わしたことも無かったと思います……予想していたことだったとしても、幸せになれない現実を私は悲しく思いました……私が傷つくと分かっていながら横暴に振る舞った。そんな貴方を今はまだ、好きになれません……申し訳ありません」


 覚悟していたことだったが、直接聞かされると心を抉られるようだとチェイスは思った。


「——本心を聞かせてくれてありがとう。クラリスは申し訳なく思ったりしなくていい、私が君を傷つけてしまったのは事実だからね。これから私は君に真摯に向き合おうと思う。そして、誰に対しても誠実な男になると約束する。君に愛してもらえるよう努力することを許可してほしい」


「はい」


「ありがとう。お願いがあるんだけど、伯爵様じゃなくてチェイスと呼んでもらえないだろうか」


「……チェイス様」


「ありがとう……」チェイスは堪えきれなかった涙を流した。

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