第6話 三週間目の浮気

 わたくしは、猫です。

 名前は、アイリーン……貴族です。


 犬猫の世界では、人間で云う血統書付きの私たちをと言うのです。

 わたくしのお父様、飼い主はペットショップで子猫の頃の私をみて、一目惚れをしてローンで購入したようです。

 そう、お気づきかと思いますが、わたくしには前世の記憶、人間だった頃の記憶があるのです……虫食い状態で朧気おぼろげではあるのですが。


 そんな私の猫種名は『メインクーン』、メークイン……『じゃがいも』と間違わないように !

 他の猫とは違い少しばかり大きいのですが、そのせいか殿方オス猫が敬遠しますのよ。

 なんと情けない、そんな惰弱だじゃく殿方オス猫なんて、こちらからお断りですわ !


 そんな私にもが来ましたの !

 お父様がアルバイトをしている、お肉屋 兼 総菜屋の看板猫 コロッケ様ですの。


 私のお父様、洋太郎と総菜屋の未来のお義母様、洋子さんが恋人同士に成り同棲を始めましたわ……と云っても総菜屋さんの空いている部屋を借りたので下宿とも云うのですけども。


 そして運命の出会いをしましたの !

 私に負けない、琢磨たくましいお身体に貫禄かんろくのあるお顔。

 そんな殿方が私に求婚しましたの !


「俺は、コロッケ !

 美しいお嬢さん、俺の恋人……お嫁さんに成ってくれ ! 」


 運命の赤い糸を感じた私は直ぐに承諾しましたわ。

 人間の頃、『喪女もじょ』と言われた私には焦らすことなんて考えられませんでしたわ !


「よろしくてよ。 わたくしは、アイリーン。

 その代わり、私はは絶対に許しません !

 もしをしたら…………『わたくし、残酷ですわよ ! 』 」


 少々、キツい言い方をしましたが殿方オス猫は浮気性な方が多いと聞いています。

 これくらいが丁度良いでしょう。


「OK、OK、俺は から安心してくれ ! 」


 少し不安に成りましたが……


「わかりましたわ、ダーリン !

 信じていますわよ 」


「ダーリン ? 」


 不思議そうな顔をして聞いてくるコロッケ様。


「外国語で『旦那様』と云う意味ですわ 」


 それから私たちの甘い生活が始まったのですが……



 ◇◇◇


【コロッケside】


 ついに、ついに、俺にも彼女、嫁さんが出来たぞ !

 これで、『モテないコロッケ』なんて言われなく成るぞ !

 俺の姉ちゃん、洋子ちゃんの家名が茂手内もてないだからって酷すぎるアダ名だよな !


 今は冬、外は凄く寒いから三週間程は家でアイリーンと仲良く過ごしていたんだ。


 そして、久しぶりの暖かい日に俺は ライバルのガンモやにゃん太郎親分への報告も兼ねて出かけたんだ。

 もちろん、アイリーンを連れてだ !

 ガンモやにゃん太郎親分は、アイリーンを連れていかなくても信じてくれると思うが、ウッシーやオコゲ女の子たちは俺の妄想だと言いそうだからな !


 少し遠回りだが安全なルートを通る為に、猫喫茶店『赤い悪魔』の前を通りかかると、


「随分とご無沙汰じゃないのさ、コロッケ !

 もう、アタシの事なんて忘れてしまったのかい !

 あんなに熱く愛し合ったというのに ! 」


 ゲッ ! シーマの奴、アイリーンの前で余計なことを言いやがって !

 だいたい、何時 愛し合ったんだよ !


「ダーリン、まさか浮気を…………


「違う、誤解だ !誓って浮気なんて…………


「アタイを『お嫁さんにしてくれる』と言ったのは嘘だったのかい ? 」


 おい、キャラ !

 嘘をつくんじゃねぇー !

 時と場合を考えろ、洒落に成らないんだよ !


「プル、プル プル、プル プル!

 お父さん、たまには会いに来てよ !

 プルはお腹が減ったよぉー ! 」


 誰だ、子猫のプルに変な事を教えたのは !


 見ろ !

 アイリーンから殺気が漏れているじゃないか !

 ……奴ら、クスクスと笑っていやがる。

 最近は寒さもあり 差し入れをしなかったからって、アンマリだ !


「ダーリンの…………


 アイリーンが俺を睨みながら、


「ダーリンのバカァー ! 」


「ウギャァーーーーー ! 」


 アイリーンが俺の尻尾に噛みつきやがった !

 あわてて逃げ出したが、


「逃げるなぁー !

 あれほど、しないって言ったクセにぃー !」


 逃げ回る俺を、いつの間にか にゃん太郎親分たちが笑いながら見ていた。


 笑ってないで助けろよ !

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