第5話

side 優斗ゆうと


バレンタインデーの当日になった。大井おおい先輩が登校するかわからなかったけど、別の先輩にそれとなく尋ねたところバレンタインでチョコをもらうために登校すると言っていたそうなので、梨衣子りいこの目的がいきなり頓挫するということはなさそうだ。僕としては頓挫した方が良かったのだけど・・・


放課後になり梨衣子のクラスへ行くと梨衣子は硬い表情で待っていた。梨衣子の側には梨衣子の一番の親友である曽根井そねいさんがいた。


「こんにちは、優斗君」


「こんにちは。曽根井さんも梨衣子と一緒に行くの?」


「うん、あたしも心配だし影から見守ってようかなって、そうだ!

 優斗君、ハッピーバレンタイン!」


曽根井さんは立派な包装紙に包まれた中から甘いチョコの匂いが漂う箱を手渡してくれた。


「え?いいの?ありがとう」


「一応、禁止だからすぐに仕舞って」


「ああ、そうだね」


持っていたカバンに仕舞おうとすると梨衣子もチョコの箱と思われるものを差し出してきた。


「わたしからも、ハッピーバレンタイン」


「え?でも、誤解されちゃんじゃ?」


「そうだよりーちゃん。

 これから本命チョコを渡しに行こうっていうのに良いの?」


僕と曽根井さんがそれぞれ疑問を口にする。


「ゆうくんも朱音ちゃんも何言ってるのよ。物心が付く前からの幼馴染みだってみんなが知ってるのに誤解も何もないでしょ」


「わ、わかった。ありがたくちょうだいするね」


そうして、ふたりからのチョコをカバンに仕舞うと梨衣子と曽根井さんと3人で大井先輩のクラスへ向かった。




「あっ、大井先輩、ちょっといいですか?」


向かっている途中で大井先輩と擦れ違ったので呼び止める様に声を掛けた。


松下まつしたじゃないか。どうした?」


「ええとですね。用があるのは僕ではなくて、このです」


「松下優斗の幼馴染みの初芝はつしば梨衣子と言います」


僕が先輩に梨衣子を橋渡しすると、梨衣子はそれに合わせて自己紹介しながら会釈をした。


「初芝?ああ、可愛いって評判の・・・よく見るとホントに可愛いな」


「あ、ありがとうございます」


「それで用ってなに?」


「すぐ終わりますので・・・

 ・・・ゆうくん、朱音ちゃん、ちょっとだけ離れて待ってて」


先輩と梨衣子を二人きりにして、僕と曽根井さんは少し離れた。

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