第20話 誰、そいつ⁉︎

 そして水曜日当日、結局女子高生に人気の俳優が主演の漫画原作映画を予約してデートの日を迎えた。

 ガラにもなくカップルシートを予約してみたり、なんだかんだで自分の方が楽しみにしているなと思いながらプランを考えていた。


 服も仕事帰りにショップに寄って店員に相談しながら購入した。髪も美容院に行って、眉まで整えてもらった。

 それでも不安は拭いきれないのは何故だろう。

 駅ビルの階段前で待ち合わせをしているが、年齢層が若くて気まずさを覚える。そもそも約束の時間は10時。現在の時刻は9時半。遅刻しないようにと早く来過ぎたことを後悔した。


 結局、居た堪れなくなったユウは近くのカフェに入ってホットコーヒーを注文した。手持ち無沙汰でない分、少しは気が紛れるだろう。


「ご注文は以上でよろしいですか?」

「あ、スミマセン。ホットココアにクリームをトッピングで追加お願いしてもいいですか?」


 年末に比べると暖かいとはいえ、ガラスの向こうには肌寒さが堪える冬晴れの眩しい空が広がっていた。

 注文していた飲み物が出来上がり受け取ろうとした時「わっ!」っと後ろから腰の辺りを掴まれ、ビクッと肩を竦めた。


 なんて子供じみたことをするんだと顔を顰めて振り返ると、満面の笑みを浮かべたシウが抱きついていた。

 あまりの無邪気な様子に、込み上がっていた怒りが鎮まっていくのが分かった。


「待ち合わせの場所にいなかったから探しちゃったよ? でもユウのことだから何か買ってるんだろうなーって思ってたら、本当にいた」


 ヘラァーって笑う様子が堪らなく愛しかった。


「ごめん、早く着いたから時間潰そうと思って。これ、シウの分の」

「ん、ありがとう♡ クリーム増し増しだね。私が甘党なの覚えてくれてたんだ」


 空いた方の手を繋いで、自然と恋人として情景に馴染み出す。悴んだ指先に気付き、擦るように動かしていくにつれ、複雑に絡んで特別な繋がり方へとなっていった。


「ふふっ、ユウのエッチー……会って早々、気が早くない?」

「違っ、僕はただシウの指先が冷えていたから」


 だが、強く握り返してきた指先の力に気付き、理由なんてどうでもいいって思えてしまった。

 小さな顔にラフだけれども計算尽くされた無造作な三つ編。鎖骨の見える白いニットに黒のプリーツスカートの裾が揺れて眩暈を覚えた。


 周りの視線が集まるのが分かる。黙っていてもそこにいるだけで華やかになる、それほどシウは可愛くて目立つ存在だった。


「ねぇ、ユウ。映画の時間までどうしようか? 何か買いたいものとか見たいお店とかない?」

「え、いや……」


 繋いでいたはずの手がいつの間にか腕に絡んで、膝が柔肌に挟まれて幸せな悲鳴を上げていた。

 やめろ、この攻撃は思考を破壊する。


「私、ユウとお揃いのものが欲しいんだけど、一緒に雑貨見に行かない? ちなみにユウはどんなのが欲しい?」


 急に聞かれても困る。お揃いってことはペアのアクセサリーが欲しいってことだろうか? 

 あまりにも慣れた動作に胸が騒めく。彼氏がいたことはなくても、こうして男子と出かけたりはしたのかもしれないとか、手を繋いだりしたのかとか経験しているのだろうか?


 そう考えていると無意識に手に力が篭って、気付けば独占欲が湧いていた。もう誰にも触れさせたくないって、自分勝手な感情が思考を支配していた。


「……ユウ?」


 頬を染めたシウが少し戸惑ったような表情で振り返る。その視線の先にあったのは更に顔を赤く染めたユウの顔だった。

 シウは驚いたように目開いたが、スグに意地悪に笑みを浮かべて、カップで顔を隠して上目で見つめてきた。


「可愛ィー……とても年上に見えないね、ユウ」

「違っ、これは!」


 そんなバカップルみたいなやり取りを、人目も気にせずにしていた二人だが、好奇な野次馬に紛れた視線に気づくことがなかった。


「あれ、シウ?」


 その子はシウの親友の野村のむら和佳子わかこだった。

 久々に親友に遊ぼうと誘ったのに断られて、渋々一人で買い物に来ていた矢先の出来事に思わずあんぐりと口を開いたまま戻せなかった。


「え、え? な、何で? あんなに頑なに彼氏を作らなかったシウが?」


 和佳子は手にしていた服を元に戻すと、二人を尾行するように後を追った。


 男子から絶大な人気を誇るシウだが、その反面女子からは「媚び女」とか「ぶりっ子能面女」と辛辣な言葉を言われていた。

 そんなシウに唯一仲良くしていたのが和佳子だった。


 ぶりっ子どころか男子に塩対応で興味ないって素振りを見せるシウに憧れを抱いていたし、そもそも同性から見ても完璧な造形美を誇るシウが可愛くて仕方なかった。


 なのに、ずっと傍で仲良くしていた和佳子ですら見たことのない顔で男と手を繋いだシウが目の前を走って行ったのだ。


「あれ、誰⁉︎」


 単純に気になった和佳子は、シウに問い詰めようとそのまま追いかけた。


 ・・・・・・・・・★


「シウシウー! 待って、待ってよー! その男、何者ー⁉︎」


和佳子ちゃんの登場です!

折角のデートなのに、一筋縄では行かなそうですね。


次回の更新は6時45分になります。

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