第15話

一方で、もはや牧口のイメージは一変した。


「牧口が池田のバックを奪ったのは、身元をはっきりさせるためだ。どこの誰かも分からないんじゃ、後日、警察が困るからな」


「さて、池田は、ナイフを持って牧口を追った。おそらくスタンガンで弱らせた牧口は、当初は、かなりふらついていた。しかし、時間が経てば、筋肉は少しずつ正常な状態に戻っていく。一方で、池田の傷口からは徐々に出血が増えていくし、傷口も広がっていく。結局、両者の距離は埋まらず、最終的にあの交差点に行き着いた」


「そこで事故が起こった。この段階で、牧口の事故は、池田にとっては、幸いとも言えるし、不幸とも言える」


「何でだ?牧口は現に死んだんだぜ。幸運以外の何者でもないだろう」


「おいおい、さっき兄貴が言ってたじゃないか。牧口は今日、死んだって」


つまり、池田が牧口の交通事故を目撃した段階では、彼が無事の可能性だってある。


「池田に迷っている時間はなかった。おそらくその段階で、彼女の出血はかなりの量になっていたはずだ。薄れゆく意識の中で、彼女は、牧口が事故で死ぬ可能性に賭けた」


「じゃあ、事件現場に戻ったのは....!?」


「仮に牧口が死んだ場合に、自分が被害者の席に座っていられるように、偽装工作をしたのさ。池田は、千堂を殺害した時に、返り血を浴びていたんだ。そのままじゃ、牧口が死んでも、真っ先に疑われるのは、自分しかいない」


「だから、二人の遺体は、折り重なるようになっていたのか....」


「衣服についた返り血を落とすことは出来ない。でも、誤魔化すことは出来る」


「頭の良い女だな。たしかに、救急が駆けつけた段階で、そもそも池田が千堂の体に触れていれば、返り血は問題にならない」


「しかし、彼女にも誤算があった。彼女は死力を尽くして偽装工作をしたのに、それらに注力するあまり、自らの命に迫る危機に鈍感だった。結果、彼女も大きな代償を払った」

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