第8話

「まあ、いいや。それと、兄貴は見逃してたけど、この事件、他にも不審な点があるぜ」


「例えば?」


「牧口の行動だよ。奴はどうして、千堂のポーチを無視したんだろうか?金目当ての犯行なら、彼女のポーチも一緒に奪って逃げればいいじゃないか」


「既に両手が塞がっていた、とか?」


「かもしれない。でも、その可能性は低い」


「どうしてそう言い切れる?」


「牧口の指紋がついていたナイフが、事故現場に落ちていた。つまり、牧口は二人を刺した後に、そのナイフを現場に捨てたんだ」


「当然そうなるな」


「犯行の時に、牧口が片手だけでナイフを被害者に突き刺したとは考えにくい。それじゃ、人を殺すほどの威力にはならないはずだ」


宗太は、刑事ドラマで犯人が殺人を犯すシーンを思い出す。

たしかに、犯人はナイフを体の正面で、両手で構えている印象がある。


「牧口は、で、二人を刺したあと、ナイフをその場に捨て置いた。そして、池田の鞄だけ持って逃走した。ほら、もう片方の手が空いてるだろ?」


「そらお前、牧口も殺人のあとでいっぱいいっぱいだったのさ」


「まあ、そう考えることも出来るけど...」


宗佑は自分を納得させるように言った。


「それよりも、血痕だよ!血痕だよ」


宗太は急かすように言う。


「ああ、それなら、なんとなく掴んでる」


「ホントか!」


信じられない、という表情で宗太は言う。


「ああ、少なくとも、【往路】に関しては、俺の推理でほぼ合っていると思う。これは、ごくごく単純な推測だ」


「ほお、言うねえ。じゃあ、教えて貰おうじゃないか」

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