THE.短編

美香野 窓

ツーーーーーー

わかが目の前で立ち寝している。

あの青衣わかが。

シートに座る僕は、腰を浮かせて、わかに席を譲ろうと。

やっぱ勇気がでない、着席。


その間にも、わかの眠りはどんどん深まってゆく。

声をかけたところで、僕なんて認識されない。

わかというアイコンの下で刻まれる、僕は膨大な数字の一にすぎず。

見落とされるだけ。

それか「頼んでないけど」的な、いつもの冷淡で目もくれず。



わかに超接近し、気づかれずに彼女を見まくる。

うん、これがいい。

わかの襟元から露わになった素肌は、幼生の眠る透き通った蛹みたいだ。

蛹をめくるように目で触れてゆく。いろんなわかを、知れるような気がして。



にしても、なんて立ち寝が上手。

あった、これこれ。

ググったスマホの画像に食い入る。

耳に蟻が入ってきて、鼓膜を食べられないよう、エア枕で昼寝するアフリカの部族だ。


わかの立ち寝に、彼らと似たモノを見て画像ににんまりした。わかの部族としての一面に。

ツーーーーーー

わかの唇から白銀の涎が滴り、糸を引きながら、僕の制服のズボンに伝う。


ハッと目を覚ましたわかと目と目が合う。

「ごめんなさい!」

冷淡しか刻まないわかの唇から漏れた謝罪、かなりせっぱつまっている。

「洗って返すから! 霧島君」

電車は目的の駅でゆっくり停車する。


ハンカチで付着した涎を拭きとるわか。僕としては拭いてほしくない。

「いいよ!ってか、霧島? なんでオレのこと・・・・・・」

「欲しいモノに、ツバをつける。そんな部族いるよね? じゃ、ズボン、必ず持ってくること」

開いたドアから駆け去ってゆくわかを、同駅で降りねばならない僕であるが、見送りつつ電車が発車した。













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