太陽の下で聖女と竜は恋をする~ShortSide~

秋犬

第1話 冤罪の聖女

「聖女ルベリア・ルナール! 貴様を追放処分にする!」


 大聖堂に司祭長様が叫ぶ声がこだましました。聖女の証である聖法衣を奪われ、罪人の粗末な服を着せられて被告人席で鎖に繋がれた私に、聴取からの冷たい視線が一斉に降り注ぎます。


 ロメール国教会で聖女を務める私は先日、国家を危機に陥れた反逆罪で捕らえられました。弁明も何もなく、いわれのない罪で裁かれることに納得がいかない私は反論します。


「お言葉ですが司祭長様、私は聖女として当然の勤めを果たしたまで。何故このように断罪されるのか、そして真に断罪されるべきは誰なのかご存じではないのですか?」 

「ええい黙れ! この聖女の皮を被った俗悪な魔女め!」


 魔女、と貶められても私は毅然と司祭長様を睨みつけた。


「魔女とは心外です! 私は神の心に従い、か弱きものを助けただけです」

「それが竜でもか?」


 司祭長様は勝ち誇ったような顔をして、聴衆はざわめき始めました。凶兆の証とされる竜は人々から忌避されていましたが、竜の子を助けてはならないという道理は聞いたことがありません。


「それに、怪我をした竜の子を私は介抱しただけです。それが何の罪になるというのですか!」


 確かに私は、先日まで酷く傷ついた竜の子の世話をしていました。オレンジ色の鱗を持ち、目元にひとつ紫色の鱗があったことから私はその子を「ティア」と名付け、飛べるようになるまで回復魔法を与え続けました。


 おかげでティアは元気になりましたが、ティアを見た司祭長様から私は言われのない罪状を言い渡され、こうして裁判にかけられています。


「竜を助けるということがどういうことがわかっているのか!?」

「たとえそれが竜であろうと、傷ついたものを癒やすのは私の務めです」


 それに、ティアは本当に酷く傷ついていました。おそらく、人間によって故意に傷つけられたのでしょう。もし裁きを受けるなら、ティアを傷つけた者こそ神からの罰を与えられるべきです。


「むむ、凶兆をみすみす生かすとは……これでは聖女とは呼べぬな。大方竜の毒気にでも当てられて正気をなくしているのだろう」


 侮辱するような司祭長に私が声を上げようとしたとき、大聖堂の重い扉が開く音がしました。


「その裁判、ちょっと待ってくれないかな」


 大聖堂に響き渡ったのは皇太子、レムレス・ロメール殿下の声でした。

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