最終話 代償

 わたしは、この現実を受け入れられずにいた。

 涙を流しながら、ただ呆然ぼうぜんとする。


『ほほう。狐筋きつねすじとは珍しい』


 わたしの頭の中でなにか低くおぞましい声が響いた。


「だれ?」


 辺りを見回す。


われと血の契約をせよ!』


 声は割れた御神石から聞こえているようにも思えた。


 ハッとする。


 今なら、鏡部長の意味不明な言動が理解できる。あの不思議な力。あの力があれば、もしかしたら茜を助けられるかもしれない。


 わたしはくちびるを強くみ、血の味を感じとると、割れた御神石に唇を押しあて血を捧げた。


 茜の周囲が青黒い光に包まれる。


 わたしは指を組んで一心に祈り続けた。


 数分後――青黒い光が消え、茜の顔に血色が戻る。わたしが「お姉ちゃん……」とか細い声で話しかけると、茜は大きく咳き込みながらもゆっくりと体を起こしたのだった。




※※※




 ――数日後――。

 


 あの石は別名『憑依石ひょういせき』と呼ばれ、憑依霊と心が通じた者のみがその声を聞くことができ、その者が血を捧げることによって憑依霊の持つ不思議な力を使うことができるのだそうだ。もちろん無償ではない。わたしはあの力を使った代償として、この神社から離れられなくなってしまった。生きながらにして地縛霊じばくれいのような存在となってしまった。ただ、後悔はしていない。双子の姉である茜を救うことができたのだから。


 それから鏡部長は現在、消息不明となっているそうだ。


 ただ、茜が死んでいないことを知れば、再び姿を現すかもしれない。だからわたしは、姉を守るためを名乗ることにした。顔はそっくりなのだから問題はないだろう。



「遊びにきたよ〜」



 姉の明るい声が境内けいだいに広がる。その隣には、女性の姿をした葉桐さんの笑顔があった。

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