第3話

 朝に目が覚めると、今日は日曜ということもあり家族で出かけることになった。行き先は近くの堤防。そこで悠二が趣味としている釣りをすることになっている。

 ただ葵はそれほど釣りが好きなわけではないので、悠二が釣りに興じている間は、傍にある砂浜で沖長と一緒に遊ぶことになった。


「ほらほらぁ、見て見てぇ、沖ちゃん!」


 葵とどっちが立派な砂細工を作るか競っていたのだが、名前を呼ばれたので視線を向けてギョッとした。

 何故ならそこには寸分違わない名古屋城の模型が出上がっていたから。


(え、ウチのオカン……凄過ぎない?)


 今は専業主婦をしているが、元々葵は美容師をしていたらしい。手先が器用な職業だとはいえ、ここまで見事な城を作り上げるのは才能でしかないだろう。


(にしても見れば見るほど凄いな……最早芸術だわこれ)


 細かいところまで再現されていて、屋根にあるシャチホコなんて今にも動き出しそうなほどリアルである。

 ちなみに沖長が作ったのは、ありきたりなトンネルがある山だ。葵と比べると恥ずかしくなるほどのクオリティだ。


「あらぁ、上手にできてるじゃなぁい! さすが私の息子ねぇ~」


 だが葵にとっては素晴らしいものだったようだ。そんなに手放しに褒められると別の意味で恥ずかしい。まあ嬉しくはあったが。

 時期はまだ三月下旬と寒いので風は冷たい。でもどちらかというと寒い季節の方が好きなので平気だ。


 堤防の方を見ると、悠二がこちらを見て手を振っていたので振り返す。せっかくだから大物でも釣ってほしいものだ。

 今度は二人で磯の方でのんびりすることにした。


「気を付けるのよぉ~」


 波の影響がほとんどない場所ではあるが、それでも水場でもあり滑りやすくもなっているので葵の言う通り注意して遊ぶことにする。

 とはいっても本当に遊ぶわけではない。いい機会だから自分のもう一つの能力を試そうと思っていたのだ。ここなら他に人気もいないしやりやすい。


 沖長は岩と岩の間や、水の中をジックリ観察する。そこには貝や小魚、小さなカニなんかも発見することができた。


(う~ん、この能力は生物には使えないんだよなぁ)


 少なくとも沖長が生物だと認識しているものに関しては使用不可という制限がある。


「……お、あったあった」


 そこにはどこかから流れてきたであろうペットボトルや駄菓子の袋、釣り糸やウキなんかもある。まさに海のゴミと呼ばれるものだ。こういうのを見ると、人間が海を汚していることがよく分かる。


 沖長はジッとそれらを視界に収めつつ……。


「――〝回収〟」


 そう呟くように口にすると、それと同時にその場からそれらが一気に消失した。


「お、おぉ……マジで成功した」


 次に一応試してみようと、ノコノコと歩くカニを見つめながら〝回収〟しようとしたが、やはり発動せずにカニはそのまま平然と水の中へと消えて行った。


(とりあえず間違いなく転生特典は機能していることは確認できたな。あとは……)


 チラリと視線を少し離れた場所で、岩に腰を下ろして休憩している葵を見る。彼女は寒そうに両手に息を当てながら、時折こちらに視線を送っているようだ。


(これだけ離れてるなら大丈夫かな?)


 そう思い、今度は――。


「――《リスト》」


 その言葉と同時に目の前に出現したのは、ゲームのステータス画面のようなもの。

 そこには《アイテムリスト》と書かれていて、〝新着〟やら〝カテゴリー別〟などの複数の枠があり、その下には先ほど〝回収〟したものの名が刻まれていた。


(お、これは分かりやすいな。それに検索もできるみたいだし)


 検索の枠を押すと、マイクのようなマークが出てくるので音声検索ができるのだろう。

 もうお分かりだろう。これが、沖長が神に願った二つ目の特典。


 それは――《アイテムボックス》。


 どこへ行くにも手ぶらで行けるし、いつか山登りや旅をしたいと思っていた沖長にとっては何よりも便利で嬉しい能力だ。

 それに異世界ファンタジーに転生しても、運び屋とか素材回収とかに大いに役に立つと思ったのだ。


 確かに勇者のような最強の力や、火や水を生み出す魔法といったものに興味はある。しかし平和な世界になった時に、そのような力が本当に役に立つのかと思うと首を捻らざるを得ない。


 それよりものんびり第二の人生を楽しむだけなら、どんな世界でも便利に活用できる能力が良いと思ったのだ。この力なら、使い方次第でもいろいろ楽しめるだろうし。


「……ん?」


 改めて〝回収〟したものを見る。


F ペットボトル(500ミリリットル・ゴミ) ∞

F 駄菓子の袋(ゴミ) ∞

F 釣り糸(三号・ゴミ) ∞

F 蛍光玉ウキ(四号・ゴミ) ∞



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