17.年齢制限?18禁?なんのことです?

 まあでも、好きか嫌いかの二択で言ったら、正直好きだ。


 というか、無駄に現実を並び立てるだけの人間が嫌い、と言った方がいいのか。いや、世の中にはいるんだよ。ちょっと御社の理念に共感しまくって、実際は給料と有給の取りやすさ以外に興味の無い会社に滑り込んだだけなのに、無駄に人生経験あります面してるやつ。


 そんな風に大人風ビュービュー吹かせまくってるくせに、人生経験ありあまってますって感じを醸し出してるくせに、じゃあ、趣味は何ですかっていったら、特になくて。やることと言えば飲み会くらいの、中身ゼロの人間がいるんだよ。いやだいやだ。俺はそんなのになりたくないよう。ぶるぶる。


 と、まあそんなわけで。そういうよく分からん大人様とは真逆にいる小峯こみねのひん曲がりっぷりは正直好きではある。しかし、それを正面から告げようものなら調子にのりまくって扱いが今の数倍は面倒になるのは間違いない。


 なので、あくまで淡々と、


「……ラブコメの中と、うちの高校じゃあるかもしれない。けど、世の中そんなに争奪戦の購買部ばっかじゃないんだよ。それだけは覚えておいた方が良い」


「えーそうなんですかがっかりです。それじゃあ、あれはないんですか?」


「あれ?」


「何故か鍵が壊れていて、逢瀬の場になっている屋上」


「……どうなんだろう」


「えー知らないんですか?」


 知らない。


 というか“情報”がない。


 と、いうことは、実際に行ってみたらあっさりと外に出られる可能性が高い。


 鍵が閉まってるなら、そう認識してるはずだから。


 多分。


 小峯はそんな俺の反応にはほとんどおかまいなしで、


「ちょっといけないラブコメの場になる保健室」


「仮眠室みたいな扱いになってるからあり得るかもしれんな」


「男子が女子の風呂を覗きに行く修学旅行」


「去年の修学旅行で覗き騒ぎがあったって聞いたな」


「多くの告白を断る学園のプリンセス」


 そこで高島たかしまが、自分を指さしながら、


「私」


「へ?えーと……」


「高島。高島さくらだ。よろしく頼むよ表のヒロインさん」


 と、俺にしか通じないワードと共に手を差し出す。そんな無茶ぶりに対して小峯は、


「はー……表の……ということは高島さんは裏のヒロインですね。あれですか。他のルートを攻略しないと到達出来ない、所謂トゥルーエンドというやつですか」


 高島は自分の手を掴みかけた小峯の手を両手でがっちりと掴み、


「わっ」


「君、なかなか分かっているじゃないか。それなら、表のヒロインがするべきことはなんだい?」


「は、はい。主人公とラブラブコメコメすることです」


「そう。それじゃ、その主人公は誰だと思う?」


「えーっと……」


 小峯はゆっくりと俺の方へと視線を移し、


「…………宗太郎そうたろうくん、ですか?」


「正解だ。さ、行きたまえ。避妊はするんだよ」


「おいコラそこの自称トゥルーヒロイン」


 とんでもない言葉が飛び出したところで、高島と小峯を引き離す。


 高島は実に飄々と、


「なんだ。興味ないのか?」


「興味があるない以前に意味の分からん話をするな。そんな話をしても小峯さんには……」


 その時だった、


「はー……つまりはエロゲ的ってことですか?」


「エロゲ……今なんて?」


 小峯は先ほどまでとペースを全く崩さずに、


「いやほら、あるじゃないですか。選択肢を選んで、一人のヒロインに行きついて、彼氏彼女になって、なんか問題が起きて、その過程でやることもやって……っていうゲームが。要は、そういう感じだってことですか?」


 高島が再び小峯の手を握り、


「流石、理解が早い。小峯……いや、詞葉ことは!君にはこれからきっと、様々な敵が出てくるだろう。だが、負けてはいけない。相手は周りに魅力的な女がいても手ひとつ出さない精神的インポ野郎だ。女の武器はそうそう通用しないと思え。もっと、根源的なところへと訴えかけるのだ。良いな?」


「イエス、マム!」


 敬礼……は出来ないで、姿勢だけを正す小峯。


 なんだろうこれ。


 なんだと思います?


 普通ならきっと、戸惑って動揺して、それで終わりなんだろう。だけど、困ったことに小峯のノリがいいもんだから、俺だけが取り残されるっていう訳の分からないことになっている。 


 おまけに「避妊」だとか「女の武器」みたいな、誤解されやすいワードだけが周りに電波していることもあって、さっきから視線が痛い。ビシビシと刺さってる気がする。この状態のまま購買部にでも行こうものなら、またひと悶着を起こして、購買部で今日も仁義なき争奪戦を繰り広げている、気の立った腹ペコ男子軍団の視線を一手に集めることになる。それはよくない。非常に良くない。


 ただ、そうなると、購買部を頼りにしているであろう、小峯の昼飯が無くなってしまう。


 という訳で、


「えっと……小峯さん?」


「はい、なんでしょうか。ごはんでしょうか。お風呂でしょうか。それとも私と朝までしっぽりむふふでしょうか?」


 黙れ脳内男子中学生。


 俺は小峯のボケを一切無視して、


「購買部っていうけど、お前まさか昼飯って」


「あ、それなら大丈夫です」


 小峯はそういうと、ごそごそと鞄を漁ったのち、


「お弁当がありますので」


 実に豪華そうな弁当の入った包みを見せてくる。


 結論。


「小峯さん。取り合えず、ついてきてくれ」


「はい。あ、小峯さんなんて他人行儀な呼び方しなくていいですよ?小峯とか、小峯っちとか、詞葉とか、マイハニーとか」


「小峯、行くぞ」


「あ、はい。わかりましたー」


 いそいそと準備をする小峯。全く、たかだか昼食を取るために一体どんだけのやり取りをさせるんだ。舐めるよなよ。ドラマすらも二倍速で見て、何かを分かった気になる飽きっぽさだけなら誰にも負けない、共感大好き現代っ子たちを舐めるなよ。

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