第13話 村長の依頼

「まず、『風斬り』のサクラ殿には、感謝を申し上げねば・・・」

マイエルの村長宅に招かれ、客間らしき部屋へと通されたところで、

いきなり私に向かい、頭を下げられる。


「この村の者が農産物を売り、他の品を買い入れるため、

 商業都市へ行った際に、盗賊の被害に遭いましてな・・・」

「ああ、それは私も聞いたことあるぞ・・・!」

ティアも横から声を上げた。


「その盗賊を討伐してくださったのが、サクラ殿というわけでしてな。

 幸いなことに品も戻りまして、都市で耳にした『風斬り』の名と共に、深く感謝しておりました。」

「ど、どういたしまして。しかし、私は商業都市の依頼で動いておりましたので、

 礼を受けるべきは都市かと・・・」


「いえいえ、それも確かではありますが、

 都市の方々も、『風斬り』がいたおかげで早く解決したと話していたとか・・・」

「サクラさん、すごいです・・・!」

「そ、そんなことが・・・」

ミナモちゃんが嬉しそうなのは良いけれど、

次に商業都市へ行ったら、マリーさんによく話を聞くとしよう。

いや、だいぶ先のことになりそうだけど。



「そのサクラ殿に、村の長として、折り入ってお願いしたいことがございます。」

うん、本題が始まったので、二つ名のことは忘れて切り替えよう。


「実は、このところ村の近くで、不審な人物が目撃されていましてな・・・」

「不審な人物・・・盗賊というわけではないのですか?」

「その可能性もありますが、何やら村の様子を探っているという話もあり、目的が掴めずにいるのです。

 農産物が目的なら、とうに行動を起こしているでしょうし、金目のものであれば、この村に無いことは少し調べれば分かるはず・・・」


「なるほど。その調査を私に依頼したいということですね。」

「はい。その通りでございます。

 都市からの報酬には及ぶべくもありませんが、お受けくださるのであれば、

 農産物をお好きなだけお持ちいただくか、あまり高価なものはございませんが、他に望むものがあれば差し上げましょう。」


「そ、その辺りは少し考えさせてください。

 ただ、私個人としても気になる話ですので、依頼はお受けいたします。」

「ほ、本当ですか・・・! 感謝いたします、『風斬り』のサクラ殿。」

・・・報酬の代わりに、その呼び方は止めてほしいと言うのはありだろうか。

いや、空気を壊しそうだよね。



「サクラさん、私ももちろんお手伝いしますので・・・!」

ミナモちゃんが、隣から力のこもった声で言う。


「うん。宿に戻ったら、色々考えようね。」

「はい・・・!」


「サクラ殿とミナモ殿は、いつもご一緒に行動されているのですか?」

「はい。ミナモちゃんは私の親族で、組み始めたのは数日前からですが、

 私一人では倒せない危険種を、一緒に戦ったおかげで討伐できましたね。」

「なんと・・・! ミナモ殿も素晴らしい魔法士でいらっしゃるのですか・・・!」


「え、ええ・・・? 私まで・・・」

「だって、危険種の討伐は本当のことでしょ? ミナモちゃん。」

「そ、それはそうですけど、恥ずかしいです・・・」

うん、頬を赤くしているミナモちゃんも、私の気持ちを分かってくれたかな。

何はともあれ、空気もだいぶ柔らかくなったように感じる。


「あんた、私と同じくらいに見えるけど、すげえんだな・・・!」

「え・・・? あ、ありがとうございます、ティアさん・・・」

・・・その辺りは頑張れとしか言えないかな、ミナモちゃん。



*****



「それで、あんたは村の中で変なことがないか、調べるってことか?」

「はい・・・とはいっても、あからさまに見回りをするのも怪しまれますので、

 ティアさんの練習を見ながら、それとなく確認したいと思います。」


「ん・・・? そんなことが出来るのは、やっぱり魔法のおかげか?」

「えっと・・・その辺りはまだ、内緒でお願いします。」

「ああ、言いにくいこともあるよな。」


一夜明けて、サクラさんは村の外へ調査に向かい、私はティアさんの近くへ。

私達が感知できる範囲はそれなりに広いですし、何かあった時の合図も決めていますが、

今は怪しい人の調査中ですし、それを口にするのは止めておきます。

・・・他にも内緒にしている話はある、ということも。


「ティアさんはいつもここで、魔道具の練習をしているのですか?」

「ああ・・・とは言っても、最近のことだけどな。」


「最近、ですか・・・?」

「初めは家の中でやってたら、壁を焦がして村長に怒られた。

 だから、こうして外の目立たないところで、やることにしたわけだ。」


「えええ・・・?」

いくら思い出せないことが多くても、壁を焦がすなんてやってはいけないのは分かります。

そして『目立たない』って、村の子供達には随分と知られているようですが・・・?


「ああ、村のみんななら大丈夫だ。

 外から来た者には警戒しろって、村長に言われたし、親父の書き置きにも・・・」

「えっと・・・・・・」

サクラさんと私は、村の外にいる間から変わった魔力に気付いていたんですが、

それにまた、『親父』って・・・


「ああ、また親父のこと話しちまった。まあ今更か。」

ティアさんが頭をかきながら、あの魔道具を取り出します。


「こいつは親父が残してくれたものをもとに、私が作ったやつでな。

 昔からやってきて、ようやく形になったのと、そんな時に怪しい奴らが現れたって聞いたんで、私が倒してやろうと思ってな。」

「・・・・・・」

色々と情報が出てきて、私の頭が忙しいですが、

一つ言えるとすれば、怪しい人が来た時にそれは、逆効果ではないでしょうか・・・


「だけど、こいつがなかなか当たらなくてな。えいっ・・・!

 昨日から調整してみたが、まただめか・・・」

「・・・ティアさん。」

見ていられない気持ちになって、ティアさんに歩み寄ります。


「もう一度、私に撃つところをよく見せてください。」

「あ、ああ・・・こうか?」


「まず撃ち出す時点で、魔力が変なほうに向いています。指に力でも入っているのでしょうか。」

「そ、そうなのか・・・?」


「はい。それから魔力の飛び方も、なんだか真っ直ぐじゃないです。

 ティアさんが調整したということですが、少し曲がっているところでもあるのでは・・・?」

「ぐっ・・・!」


「あっ・・・! ごめんなさい。

 その、言い過ぎてしまったでしょうか。」

「い、いや・・・確かに少しばかり、頭を殴られたような気分だが、

 親父の書き置きにあったんだよな。もしこいつを本当に理解して、助けになってくれるような奴が現れたら、

 一緒に完成させるくらいのつもりで、話を聞けって。」

「え・・・・・・」


「なあ、少し親父の話をしてもいいか?」

「は、はい・・・私でよければお聞きします。」

あっ! でも、サクラさんにも後でお伝えして良いか、確認しなければなりませんね。

忘れないよう気を付けながら、私はティアさんの話を聞き始めました。

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