今日の勇者、追いかけ回される。
5人の冒険者が襲ってくる!
こちらにはおれひとりとフェンリル一匹しかいない。
「貴様の懸賞金を投資の元手にしてやる!」
鉢巻と黒帯の《空手家》が殴りかかってきた。
空手で精神を鍛錬しているものとは思えないほど生々しい欲望を口にしながら向かってきた。
「冒険者の懸賞金なんてあぶく銭じゃなくて、もっと堅実に働いて稼いだお金で投資しろよ!」
《空手家》の正拳突きを掌底ではじく。
蹴りをガードして、バックステップで距離を取る。
「堅実に働きたくないから冒険者やってんだよ!」
闘志をむき出しにして《空手家》が距離をつめてくる。
これはそう簡単には逃がしてくれないようだ。
なにがなんでもおれを倒して、真面目に働かないで投資の元手を作るという邪なやる気に満ち満ちているぞ。
「採点のバイトとか、短期や日雇いのバイトから体を慣らして真面目に働け!」
《空手家》のステップにあわせて踏み込み、こめかみを蹴る。
鋭いキックで意識を刈りとる。
「じ……実家のキャベツ畑が見える……」
ふらついた《空手家》が千鳥足で2歩3歩とすすんでうつ伏せに倒れる。
ほぼHPバーは減っていないけど、代わりに状態異常:気絶が付与された。
「実家に稼業があるなら手伝いなよ。親孝行でご家族も喜ぶって。きっと」
もう聞こえていないだろうけど声をかけておく。
おれは好きで冒険者をやってるけど、もう家族がいないから親孝行はできないし、家族がいる人にはおれができなかった分の親孝行をしてほしくなる。
「お前を倒してジープの新車を買うんだ!」
鎧と大剣の《騎士》が、大剣を振りかぶる。
おれより背が高い。
3メートルくらいあるんじゃないか。
「ジープってそんなに高いのか?」
大きい車だよね、ジープは。
運転免許証も持ってないし、車に興味がないからよく知らない。
でもおれの懸賞金で買おうとするということは、かなり高いんじゃないかな。
「最高級モデルはオプションパーツましましで1300万はする!」
《騎士》が大剣を振り下ろす。
川のそばにあった大岩が砕かれて、その破片が高速で飛散し鎧を叩く。
おれの想像よりも車は高いんだな。
「でもさ、おれの懸賞金で買うにしては安くない? Sランカーなら買えるでしょ?」
「冒険者の稼ぎはほぼほぼ経費で消える。3億稼いだら装備の更新で2億5千万が消える」
「マジで!? 思ったよりも利益が出ないんだな、冒険者って」
「あと、都内に専用の駐車場を買いたいから、最低でも4億は貯めないといけないんだ」
「もうそのお金で会社を作っちゃいなよ」
大剣を振り下ろしたまま隙ができた《騎士》の鎧を上から殴る。
相手の鎧が岩にめりこんで、動けなくなる。
「お、俺の……目黒の一等地に駐車場をたててジープを飾る夢が……」
「たまに高級マンションの一階に高い車が飾ってあるのは、そういう理由だったのか……?」
さっきから欲望にまみれた冒険者がおおいな。
命がけでダンジョンに潜るような連中はみんなそうかもしれない。
レイピアとドレスの《吟遊詩人》が向かってきた。
今度はどんな欲望を口にするんだろう。
「おまえを倒して弟と妹の学費を一気に稼ぐッ!」
「これまでで一番まっとうで一番否定できない願いだ……!」
すばやく繰り出されるレイピアの連撃を避ける、避ける、避ける。
ちくしょう、今日はなんだか戦いづらいぞ。
いつもなら軽いノリで挑戦してくる賞金稼ぎを適当にあしらえばそれでOKなのに、今日はいつもより人数が多くて、やたらとねちっこい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます