初のコラボ配信!

なりきりコスプレ配信者、実は異世界帰りの勇者でした。

「どーもー! 花形サキです!」


「ど、どうも。異世界勇者のタマちゃんです」


撮影魔法マジック・フォト》で配信開始、みんなのソロ専シーフ、花形サキです!


「今日は、この間たすけてくれたタマちゃんさんとのコラボ配信です!」


 ちょっと人には言えない方法で連絡先をゲットして、なんとかこぎつけました!

 

「こんにちはー……」


 その勇者のタマちゃんさんは、私の後ろで小さくなって隠れようとしています。

 借りてきた猫かな?


「もっと前に出てくださいよ。コラボですよ」


「人前に出るの、慣れてなくて……」


「なんで配信者やってたんですか!?」


:タマちゃん、名前も仕草も借りてきた猫じゃん

:これが草食系男子くんですか?

:この間ドラゴンステーキを食べてたけどな


 この人、配信前の打ち合わせの時もずっと「あっ、はい」とか「えっと」を繰り返していて、すごく緊張している。

 戦闘だとあんなに強いのに、日常だと臆病なウサギみたいにおとなしい。


「これが……ギャップ萌え……?」


「女の子に頼りないと思われてる……!?」


:あーあータマちゃん傷ついちゃった

:せんせー! サキちゃんが男子を泣かせてまーす!

:ふつうは逆なんよ


 ガーン、と効果音が聞こえてきそうなくらいきれいな落ち込み方をしてる。

 このままいじめたら灰になって消えてしまいそう。真っ白に燃え尽きそう。


「大丈夫、大丈夫です。はいこれ、ゼリーです」


「うう……久しぶりの甘味が美味しいよぉ……」


 ギルドの購買で売ってるゼリー飲料ブドウ味(税込278円)をすごく美味しそうに食べてくれる。

 泣いてても体は美味しいものを求めてるんだな。


:借りてきた猫の餌付け

:この人がホントに飛竜種をソロで討伐したのか……!?

:だがギルドのゼリーはうまいよね

:コンビニでも売ってくれないかな~


「久しぶりの甘味ということは、食事はダンジョン産の食材オンリーで?」


「うん。ダンジョン暮らしだからね。長いこと外に出てないや」


 しみじみというタマちゃんさんは、ゼリーのパックに書かれている栄養成分表示などなどをじっと見つめて日本語を読んでいます。

 目の動きから察するに、日本語を理解しているみたいだね。


 小声で「思ったよりカロリーたっか……」とつぶやいてるし?


「それじゃあ今日はですね、タマちゃんさんによるダンジョン案内講座ということで」


「花形ちゃんさん、そのことなんですけど」


 はい? もしかして配信中に企画に文句をつけるタイプのコラボ相手だったり?

 あれだけしっかりと打ち合わせをして、おたがいにOKを出したのに、たくさんのリスナーを前に日和っちゃった?


「できれば『タマ』だけでお願いします」


「分かりました、タマさん」


「タマです」


「分かりました、タマくん」


「タマだ」


「タマちゃんさん」


「タマだと言っている」


「じゃあタマちゃんで!」


 押し切った。配信のことは私の方が先生なので言うことは聞いてもらう。

 それに分かりやすくてキャッチーな名前はアドバンテージになります。

 

 配信者と呼ぶにはそっけなさすぎる、無音ソロキャンプ配信者並みに飾り気がないこの異世界勇者さんに、ちょっとずつダンジョン配信というものを覚えさせようと思います。

 ダンジョンで助けてもらった恩返しには、ちょうどいいでしょ?


「それではこのタマちゃんに、ダンジョンを案内してもらいます」

 

《撮影魔法》のドローンで引きの絵を見せる。

 腰に手を当て胸を張って自信たっぷりの姿を見せる。

 こういうのはハッタリが大事なんだから。


:うお……でっか……

:たすかる たすかる


「ふふん。でしょでしょ?」


 男の子ってこういうのが好きなんでしょ?

 胸が大きくて可愛い女の子がダンジョンで配信すると、リスナーもなにもかもうなぎ登り。

 配信を始めて最初に覚えたことです。


:タマちゃん隠れきれてないぞ

:うお……(フルアーマーの勇者)でっか……

:2メートルありそう


「タマちゃん!? そっち?!」


「ご、ごめん。背中に隠れちゃって……」


 振り向けばフル装備のタマちゃん。

 私より頭3つ分はおおきな男の人が、ちいさくちぢこまって背中に隠れようとしてる。

 

「勇者なんでしょ、盗賊の背中に隠れちゃダメじゃない?」


「こんなに人がいる配信に慣れてなくて……」


 そういえば、ちょっと前まで登録者数もほとんどない配信者だったんだ。

 急にバズっちゃったら動き方も分からないか。

 ま、こういうことは私が教えてあげればいっか!


「ほら、勇者なんだから前に出て。自己紹介しなきゃですよ」


「にゃーん」


 背中に隠れようとする借りてきた猫を押し出して、配信画面の前に押し出す。

 これでもう話すしかない。


「ええっと、役割ロールは戦士……でいいのかな? こっちの世界に勇者のジョブがあるか分からなくて」


「ふんふん。ギルドでステータスは見てもらったんですよね?」


「適性診断で弾かれちゃって」


:神官さんが《鑑定》してくれるやつか

:おれの時はレスラーみたいなムキムキのおじさんだったな~

:《鑑定》で才能が向いてる役割ロールとか教えてくれるんだ


 まぁ、異世界勇者を名乗るユニークモンスターさんだし、そんなこともあるのかな?

 そもそも人間扱いされてないんだよね。


「でも日本語は分かるんですよね。魔法で翻訳されているとか? それともマジックアイテムとか?」


 そこが不思議だ。

 知能が高いユニークモンスターはいるし、道具を使うモンスターはいるけれど、なんでこのタマちゃんだけがスマホを操作して配信を始めたのか。

 おおいなる謎です。


「いや、母国語だからさ」


「母国語? ダンジョンで生まれたユニークモンスターでもそういう概念はあるんですね」


:これ異文化とのファーストコンタクトじゃね?

:めちゃくちゃ貴重な瞬間が配信で流されてるわ

:大学のレポートもこれで書ける


 タマちゃんの配信に出ていた《フェンリル》も日本語で会話していたし、生まれた国の言語が分かるのかな?

 

「日本生まれで日本育ち。本名は珠樹 栄永タマキ・サカエ……現代日本から異世界にいって、出戻りで日本に帰ってきたんだ」


「…………言いたいことはたくさんありますけど、ひとつだけ。コラボ配信で爆弾を投下しちゃダメですよ!!!」


 コラボ配信で台本にないアドリブはやめろぉ!!!!!

 反応に困るでしょうが!

 こっちが驚いて会話のキャッチボールを投げ返せない時のことも考えろぉ!


:もっと突っ込むところあっただろ

:ダンジョンがあるんだから異世界も転生者もあるだろ

:異世界もあるんだったらよぉ、家に帰ったらエッチなサキュバスのメイドさんがお出迎えしてくれる召喚魔法も実在するんじゃねえか!?

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