第3話 野外の新人冒険者指南教室


「あぁ、そうだ。ちょうど良い。今の二匹、どうして片方は一度で仕留めきれなかったか、その理由は解るかい?」


 一息ついた後に俺が問い掛けた言葉に、ソマリアは首を横にかしげ、カイルはバツが悪そうな表情を浮かべる。


「俺の剣技が未熟だったからってんだろ?」


 お、一応自分の力量を省みる気持ちはあるんだな。


「確かにそうだが、それだと半分正解だな」

「半分?」

「あぁ」


 俺はカイルに向けていた視線を、いまいち要領を得ないといった様子のソマリアの方へ移して相槌を打つ。


「もう半分は、単純に言えば相性の問題だ。ここまで言えば解るだろ?」

「あ、火ですか」

「御名答」


 納得がいった様子で声を上げるソマリア。対してカイルはまだ完全には理解出来てないのか神妙な表情を浮かべている。仕方ない、きっちり説明するか。


「例えばこれが水流球<ウォーターボール>とか、火以外の魔法だったらソマリアも一発じゃ仕留められなかったんだろうけどな」


 うんうんと頷くソマリアと、まだ首をひねっているカイル。なんだかこの二人の対照的な様子を見てるのもちょっと面白いな。


「シルバーウルフは体表が結構硬めの毛で覆われてる。覆われてないのは、俺が斬った腹部くらいだ」


 そう言って俺が最初に倒した二匹と、群れの頭と思われる一匹に目をやる。

 どのシルバーウルフも、しっかり同じ部位……毛が無く一番の弱点とも言える腹部が横一文字に切り裂かれている。


「つまりそれ以外の場所を切り裂こうとすれば……」


 次にカイルが倒した一匹に視線を移し傷痕を見る。

 最初に彼が横に薙いだ一撃は、無意味ではなかったがシルバーウルフの側面の毛がしっかり生えている箇所に直撃していた。これでは斬撃の威力は幾分か殺されていたはずだ。


「な、なるほど……」


 ようやく俺が斬った時との違いが解ったらしく、カイルが納得の声を上げる。


「まぁ、これが理由の半分の技量不足。もう半分の相性ってのは、簡単に言えば、毛で覆われているって事は燃えやすいって事さ」


 最後に、ソマリアが仕留めた火炎球で燃やされたシルバーウルフの死体を見る。

 他のウルフは斬撃で仕留められたので体表の毛はそのまま残っているが、こいつの場合は焼かれているので、全身の毛をむしられたかのような、まるで丸焼きのローストチキンのような姿になっている。


「魔法の威力に加えて、全身がずっと燃えてるって感じだな」


 正直自分の身だったらと考えるとぞっとするが、まぁ命を狙ってきた相手だからな。慈悲は無い。


「要は、カイルの斬撃は威力を殺されて、ソマリアの魔法は威力が増したって事だ」

「そっか、それで……」

「……あ、ちなみにポイズンフロッグに火炎球は打つなよ?」

「え?」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするソマリア。やっぱり知らなかったか。


「ポイズンフロッグは体表にも毒があるんだが、火炎球はその毒を蒸発させて気化させてしまうからな。自分で自分の首を絞める事になるぞ」

「そ、そんなぁ……苦労して覚えたのに……」


 物凄く落ち込んだ表情を見せる。あれ?これはもしかして……


「……ちなみに、火炎球以外に使える魔法は何がある?」

「……無いです」

「ナイデスなんて聞いた事無い魔法だなぁ」

「いや、使える魔法が無いんです」


 ……うん、知ってた。ちょっと現実逃避したかっただけなんだ。

 まったく……本当に勢い任せだったんだな、こいつ等。今更嘆いてもしょうがないか。


「解った、お前等に最低限の剣と魔法を教える。ポイズンフロッグ討伐はそれからだ」

「で、でもそれじゃあ期限が」

「死んだら期限も何も無いだろうが。お前等……特にカイルの様子を見る限り、どうしてもポイズンフロッグを倒さないといけない理由があるんだろう?」

「!」


 カイルは驚いたような表情を浮かべるが、あれだけ荒れてるのを見せられれば普通に察せる事だけどな、それくらいは。

 ソマリアはソマリアで深刻な表情で俯いてしまうし、どんな理由があるのやら。


「今のままじゃ討伐に行っても無駄死にするだけだ。だったら、今無駄死にしに行くより、しっかり倒して帰らないとだろうが」

「で、でもアルスさんが居れば」


 面を上げてソマリアが何か言いかけるが……それは違う。


「俺はあくまで手伝うだけだ。ってかお前等新米とは言え冒険者だろうが。誰かにおんぶに抱っこで危険を超えるなんて、そんな根性で良いのか?お前等が自分でやると決めた依頼だろう?」


 やや語気強めに言い様子を見る。

 勿論強く言うといっても音量は普段通りか少し小さいくらいだ。さっき大きな声や音は魔物を引き寄せるって言った手前、俺がそれをしちゃ締まらないしな。


 そんな事を考えながら二人の方を改めてみると、下を向いていた顔を上げて俺の方を真っ直ぐ見てくる。うん、良い表情するじゃないか。


「……で、どうする? 少しだけだが稽古つけてやろうか?」

「「お願いします」」


 二人は真っ直ぐ俺を見つめながら、ほぼ同時に返事をした。

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