第10話 強さを証明して見せよう

「俺の傘下に入れば先ほどの狼藉は見逃してやるし、ある程度の力は授ける。しかしその代わり俺の傘下に入るってことは、悪どいことは全面的に禁止してもらう。もちろん、貴族どもへの奴隷の斡旋は禁止となる」


 俺が言うとバンドムはワナワナと口元を震わせながら、こちらを睨みつけてきた。スタンを受け全く動けない相手から必死に睨まれても、哀れや滑稽だと思うだけで別に恐ろしいだなんて一ミリも思えないのだが、そんな哀れな自分の姿を客観視できない彼は、か弱い子犬が自分の身を守るために吠えてる、みたいに必死に叫んできた。


「ふざけるなッ! 何でお前みたいな公爵家の面汚しに支配されなきゃならないんだ! 俺は絶対にごめんだぞ!」


 なるほど。俺はそう言われようやく気がついた。確かにそう思われるのは仕方がないことかもしれない。俺は客観的に見ればただのオックスフォード家の面汚しでただの愚鈍な木っ端の一人にすぎない。そんな奴から急に傘下に入れと言われても困るだけだろう。


 このまま強引に傘下に加えても反発されるだけだし、そもそもここでの口論すらも効率が悪い。だったらやはり俺の知識や凄さを徹底的に効率的に知らしめて心を折り、その上で傘下に入るように交渉したほうがいいだろう。そうすれば相手の方から喜んで従順になってくれるはずで、そっちの方が割り切れてて関係がこじれることもない。やはり人を操るには憧れられる存在に見せかけるのが一番効率がいいのだ。


「そうだな。確かにお前の言うことも一理あるかもしれない」


 俺がバンドムの言葉に頷きながらそう返すと、相手はキョトンとした表情になった。一瞬、何を言われたのか本当に理解できなかったらしく、口を開けて間抜けな表情をしていたが、徐々に頭が理解していったのか、すぐに勝ち誇ったような顔になると明らかに見下してくる口調でこう言った。


「ハンッ! ようやく気がついたか! 無能で愚鈍なくせに、たまたま運良く素手パリィが成功したからって一丁前に粋がってきやがって!」


 粋がっているのはどっちだよと心の中で思わず突っ込んでしまうが、もちろん口にはしない。まあ相手からすればこんな面汚しが素手パリィをできるはずがないと勝手に脳内でバイアスがかかり、そこから『こんな面汚しが素手パリィしたのはただ運が良かっただけ』だと導き出されたのだろう。自分の肥大化したプライドを守るための自己防衛による反射反応なのだろうが、まあ、うん、そんなちゃちなプライドの時点で相手の程度はお察しだ。


 しかしそんな奴らにも使い道が存在する。結局、一人だと限界がある。数が正義になる時は必ずくるのだ。それに数を用意できればやれることの幅が広がる。最終的に金策もしなければならないと考えていたが、人数がいればその時間を短縮できるのでやっぱり人海戦術が正義ということになる。


「お前らにそう思われても仕方がないだろう。これは俺の落ち度だ。俺がお前らに力を示しきれなかった怠惰に過ぎない」


 俺はそう言いながらいまだにスタンで動けないバンドムに近づいていく。彼は無表情で近づいてくる十歳の餓鬼に怯え表情を引き攣らせている。


「……どういう意味だよ。力を示せなかったってどういう意味だよ。てめぇみたいな餓鬼に力があるわけないだろ!」

「それを証明してやろうと言ってるんだ。確かに俺の言葉がただのハッタリで、全く力がなければ【ワイバーンたちの天空世界】を攻略できないだろう。しかし俺に力があれば──あのダンジョンを攻略できると思えないか? なあ?」


 問いかけるように言うと、バンドムはそこでようやく余裕の表情を見せた。心から安堵できたみたいに息を吐くと笑い出した。


「ガハハッ! てめぇ、あのダンジョンを攻略できると本当に思っているのか! ああ、そうか、それだったら行ってみるといいさ! 運だけで素手パリィを成功させて調子に乗った貴族の餓鬼が攻略できるわけないのにな! 馬鹿はこれだから助かるぜ!」


 心底小馬鹿にした口調で言うバンドムに俺は無表情を貫く。別に今は何を言われてもいい。俺はあのダンジョンを攻略できるのだからな。これが強者の余裕って奴だな。と言うか、逆に今は言い返すよりも【ワイバーンの天空世界】に行ってもいいと許可を取るのが大事だ。


「では俺が【ワイバーンの天空世界】に潜るのは構わないということだな?」

「ハハッ! ああ、いいだろう! 行ってこいよ! あ、ただし自分の死体だけは残すなよ! 腹が立つからな!」


 よし、言質は取ったな。そもそもここにきた目的が【ワイバーンの天空世界】だからな。その目的をクリアできるどころか、さらに攻略しきれば大量の部下が手に入る。棚からぼたもちとはまさにこのこと。


「それじゃあ今日までに帰ってきて見せよう。そうすればお前たちも流石に認めるだろうからな」


 俺はそれだけを言ってその大部屋を抜けた。背後からは大量の小馬鹿にするような笑い声が聞こえてくるが、好き勝手言わせておけばいい。最終的に勝つのは間違いなくこの俺なのだからな。

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