間話 血と鉄と安定と

「なぁ義良」


「何ですか、仕事して下さい」


スラスラと目の前の仕事の山を片付けながら

仕事をサボっている袁煕様を注意する。


「今は休憩中、と言うより義良も休め

 お前朝から休憩取ってないだろ」


「そんな事は…」


確かに朝から休憩していない事に気づく。


「お前また倒れて

 奥さんに心配かける気か?」

「……わかりました」


その言葉に筆を置き袁煕様とお茶を飲む。


「やはり愛妻家だな仕事狂いの義良が

 こんな素直に言う事聞くとは」


「妻に号泣されながら叱られたら

 誰だって言う事聞く他ないでしょう」


あの時は、日頃無口で滅多に

感情を出さない妻が

大声で泣き喚く姿を見て罪悪感が凄く

無理はしないと決意した。


「…羨ましい事だ」


…気まずい袁煕様は、

奥様とうまく行ってないものな。


「しかし義良が幽州に

 来てくれて助かった」


袁煕は、気まずい雰囲気を感じ取り

仕事の山を見ながら話を変える。


「ふっ…そう思うなら

 給金あげてもいいんですよ?」

「それは、弁舌が上手くなったらな」

「…それは、関係ないでしょ」

「本当に?」

「…給金は、今の所大丈夫です」


先日交渉に失敗して袁煕様に迷惑をかけた事を思い出す。


「まぁ冗談だ後で給金上げておく」


袁煕様の言葉にお礼を言う。


「しかし何で義良は、

 弁舌の才能が無いんだろうな?

 その欠点が無ければ

 今頃父上の参謀にも推挙されただろうに」


私だって知りたい。

弁舌は、田豊様や沮授様にも御指南頂いたが

一向に上手くならず怒られるよりも逆に慰められるほどに才能がないのだ。


「まぁそうなれば私は、

 ここにいなかったかもしれませんね」


「なら私は、天に感謝を

 捧げなければいけないな

 弁舌の才能をなくしてくれて」


…袁煕様の仕事増やすか

義良は、頭の中で明日の予定を組み直す。


「おい…なんか嫌な予感がしたぞ」

「気のせいでしょ」

「いーやそんな…ん?」


執務室に一人の兵士が入ってくる。


「失礼します、義良様

 予定の豪族達が集まりました」


「そうか…準備は?」


「終わってます」

私は、お茶を飲み干し立ち上がる。


「義良、また交渉か?

 やめとけってそれなら俺がした方がいい」


失礼な物言いの主人に木簡を投げる。


「うおッ!?危ないな

 こっちは、善意……で……」


袁煕は、木簡を見て固まる。


「おい…これって」

「…私は、一度交渉しました。

 そして、あの者らはそれを蹴った」

「…いや…下手な交渉蹴ったらこれって

 豪族達に同情するぞ…本当にするのか?」


袁煕様は、そう言うっても

止める気はない様だ。


「私は、舌戦の才能はありませんが

 こう言うのは得意ですから」


「…恨まれるぞ」


「構いませんそれが我が主の為なら」


そう言って袁煕様に頭を下げて部屋をでだ後

兵士を伴い歩いていく。

 

その後役所に血と悲鳴がこだまし

この日から幽州は、

袁煕の元で一つに纏まった。

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