第二話 幸せな空間

「ふぅ…」


席に座りお茶を一口飲んだ父が

だいぶ疲れが溜まっているのだろう

深いため息をつく。


「父上、大丈夫ですか?

 だいぶお疲れのようですけど」


「ん?まぁ徴税時期だったからね

 疲れるよ毎年この時期は」


父上は、肩を回して身体をほぐす。


「あれ?旦那様確か部署移動したと言いませんでした?」


母上が父の言葉に疑問を抱く。


「ん?そうなんだけどね

 どうしても人手不足だからって、

 応援に呼ばれちゃって、

 あっでもそのおかげで

 特別手当もらえる事になったから」


その言葉を聞いて母上が見るからに喜ぶ。

まぁうちは、父が幽州涿郡の役人で

そこそこのお金を貰っているが

このご時世いつどうなるかわからない為

臨時の給料は、嬉しいのだろう。


「それに明日から数日は、

 お休みが取れたからゆっくりできるよ」


「えっ?そうなんですの?

 それならよかったですわ

 …はいおかわりです」


母上がスッとお茶を入れ直す。

 

「ありがとう……うん

 いや〜やっぱり高春の淹れてくれた

 お茶は、美味いな!!」


「旦那様ったらお世辞がお上手ですこと」


母上がホホホと笑う

やはり父上が居ると母上は、上機嫌だ。


「ハッハ本心だよ、

 それより劉良、勉学には励んでいるのか?」


「はい父上、今は菅子を読んでるところです」


「ほう、菅子か!!

 なかなか目の付け所がいい

 論語はどうだ?」


「うーん、一応読んではいますがあまり興味が湧きません」


確かに論語は、

人としての大事な事を教えてくれるが

あまり勉学の主軸とはしたくないとも考えていた。


「ふむ…論語と言うか儒教は、

 この国においてとても大切な教えだぞ?」


「確かにそうなんですが

 私が目指すべきは、孔子より菅子だと

 考えてます。」


確かに孔子は、素晴らしい人格者だと思うが

その人生を参考にしたくは無い。

魯の国に生まれ志高く生きたが

結局政局に負け家族を残し

各国を回る事になる。


対して菅子は、

確かに幾つもの失敗と危機に陥ったが

友の鮑叔のおかげもありそれを乗り越え

その後、桓公を支え斉を覇者へと押し上げた。


どちらの人生を参考にしたいかと言えば

菅子の方だろう。


「ふむ孔子より菅子か…ふっ面白い

 さすが私の息子だ!!

 これは大成するぞ!!」


「ふふふ私の息子ですから当然です。」


「ふふそうだな私と高春の子供だからな!!」


二人がそう言って笑い出す。


その親バカっぷりは、どうかと思うが

その光景を見て劉良は、自然と涙が溢れる。


「ん!?良どうしたの!?」


両親が突然泣き出した劉良に困惑する。


「いえ…ただ目にゴミが…」


劉良は、嬉しかったのだ

前世では無くしてしまったもの

奪われてしまった幸せな空間が

目の前にあるのだから。


…守ろう今度こそは…!!


「良、本当に?大丈夫!?」

「そっそうだ目を洗おうさっ行こう」


あたふたする両親を見ながら

劉良は、密かに決意した。

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