勇者の再来

 穴があった場所から声が聞こえてくる。

 その声はおそらく白龍王、ウィルバールが出したものだろうということは想像ができるのだが、妙にその声が若い子供のものだったのだ。


 その声は気になるところではあったが、どちらにしてもウィルバールであることに違いはない。



「何もなかったということでいいな」

「マオ様がそのように仰るのでしたら」



 恭しく頭を下げるルシフェル。

 それに釣られるようにエルミナも頭を下げていた。




       ◇ ◆ ◇




 ライフェルの街の冒険者ギルドはかなり慌ただしかった。

 それもそのはずで本来は近くに居るはずのないドラゴンが目撃されたのだった。



「なぜこんなところにドラゴンが!?」

「そんなこと言ってるか! 早く逃げるぞ」



 冒険者ですら逃げ惑う現状。

 それもそのはずで、ドラゴンの討伐ランクは最低でもAランク。一方、この街にいる最高の冒険者のランクはBである。


 しかも、ソロパーティーの冒険者なのだ。


 ライファルの冒険者ギルド全勢力を持って退治したとしても、良くて撃退。最悪だと全滅する恐れがある。


 逃げ出そうとする冒険者がいてもおかしくはない。

 それでも――。



「緊急依頼です! ドラゴンの討伐。ライフェルにいる冒険者の皆さん、緊急依頼です!!」



 冒険者ギルドで受付嬢が大声を上げて紙をひらひらと掲げていた。


 冒険者はほぼ自由の職業であるが、いくつか強制で働かないと行けない場合がある。

 その一つが国や領主が防衛のために必要と招集する『緊急依頼』である。


 この依頼に失敗の罰則はない。

 ただし、参加しなかった場合には罪に問われることとなる。


 よほどのことがないと発令されないそれが、ドラゴン襲来とともに発動されていた。



「くそっ、俺たちに死ねって言うのか?」

「Eランク冒険者の俺たちがドラゴンと戦えるはずないだろ!」



 悪態をつく冒険者たちだったが、そんな彼らの横を通り過ぎてまっすぐ受付嬢の下へと行く三人組がいた。



「また、冒険者に登録してないけど、その依頼って受けられるの?」

「もちろん戦える人なら誰でも歓迎ですよ。ですが、あなたは?」

「私はミーナ。一応勇者をしている」

「俺は剣士を担当しているアルマだ」



 赤髪でやや背の高いビキニアーマーを着た女性が前に出て言ってくる。

 と、次は白いローブに身を包んだ少女が前に出る。

 この3人組の中では、一番背の低いまるで子供のような少女である。それでも背丈に近いほど大きい杖を持っている。



「わ、私はリリ……です」



 それだけ言うとすぐにミーナの後ろに隠れていた。



 剣士一人魔法使い一人、僧侶一人のバランスの取れたメンバーである。

 正直、今は猫の手も借りたい状況である。

 この少女たちの強さが、どれほどかをわからない。

 それでも最悪、武器とかを運んでもらうだけでも助かるのだ。



「わかりました。では、こちらに名前を書いていただけますか?」



 そこにはドラゴン討伐に参加する。冒険者の名前が書かれていた。

 おそらく、これをもとに最後、報酬を分けるの。


 言われるが、ままにミーナたちは名前を書くと、情報収集のために受付嬢に聞く。



「そのドラゴンがどこに行ったかわかる?」

「あの山のほうに向かっていきました」

「それなら安心」



 ミーナはこれ以上被害が拡大しないことを本能的に感じていた。

 それもそのはずであの山には自分を鍛えてくれたマリベルの長であるマオ様がいるのだ。


 ただのドラゴン程度にマオ様がやられる姿なんて想像ができない。



「ほ、本当にドラゴンなんて討伐するの?」



 リリは不安げにミーナに聞いてくる。



「うーん、まだ生きてるなら倒すべきだろうけど、多分徒労に終わるかな?」

「どうしてだ!? 俺はいくらでもやれるぞ!!」

「倒された相手とはやれないでしょ」



 ミーナは呆れながら言う。

 その口調はすでにドラゴンが倒されていることを確信している風でもあった。



「マオ様を恐れて逃げたドラゴンが襲ってくる、とかもあるか」



 あのマオ様の強さは普通に見ただけではまるで気づかない。

 知らず知らずにドラゴンが喧嘩を売る、とかも十分に考えられた。



「その噂の賢者様は単独でドラゴンを葬れるのか? それは俄然興味が沸いてきたな」

「わ、私は少し怖い……かも」

「大丈夫だよ、マオ様のことは私が保証するからね」

「まぁ、そのミーナが好意を持ってるというマオ様? に会いに行くのが今回の目的なのだろう? こんなところで寄り道してていいのか?」

「もちろん大丈夫。人の助けにならないとマオ様に合わせる顔がないから」

「そいつも善人か」

「うん、まだまだ弱かった私を無償で鍛えてくれた師匠だよ」

「確かに今時無償でしてくれる奴はいないよな」



 アルマ自身、お金を払い剣の腕を磨いてきた。

 だからこそお金の大事さはわかるし無償でそんなことをしてくれる人がどれだけありがたいかよくわかった。



「そこがマオ様のすごいところですよ。そんなところにドラゴンがいったのですから、むしろドラゴンに同情しますね」

「ただ、ドラゴン討伐を理由にマオ様?とやらに和えるチャンスでもないのか?」

「はっ!?」



 全く気づいていなかったのか、ミーナは驚き頷く。



「ほらっ、二人とも。すぐいくよ」



 アルマの言葉でやる気を出してしまったミーナは先に街を出ようとしてしまうのだった――。

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