第2話 来訪客②
霧宮飛鳥。
彼女は入学して一ヶ月も経たない内に、先輩や同級生から美少女と呼ばれていた。クラス内でも人当たりが良く、男女問わず仲良いのを見かける。
そんな霧宮さんが両親と一緒にいるのが謎だけど、もっと謎なのが山神さんの後ろにいることだ。
「風磨。 そんな所で呆然としていないで二人をリビングに案内してあげなさい。 私たちは私服に着替えてからリビングに向かうから」
母さんは俺の肩をトントンと叩くと、父さんと一緒に着替えるために自室へと向かった。
そうだよな…こんな所で悩んでいても仕方がない。いつまでも玄関先のままでは悪いし、母さんの言う通りリビングに案内しないとだな。
「とりあえず、リビングに案内しますね」
「よろしくね、風磨くん」
山神さんは眩しい笑顔を向けて返事をし、霧宮さんはコクリと小さく頷いた。
リビングに着き、二人をソファーへと案内をした後、一旦キッチンでお茶を用意してから俺は二人の対面に座った。
山神さんは用意したお茶を一口飲むと、こちらに微笑してきた。
「急に訪問して来て悪かったね。 予定とかあったんじゃない?」
「一つも予定はないですよ。 寧ろ、誘われていないのでゴールデンウィークも家でゴロゴロしながらゲームやアニメ三昧ですよ」
「そんなことはないでしょ。 風磨くんは見た目カッコいいんだから女の子から誘われるんじゃない?」
「全然誘われませんよ。 友達だって片手で数えられる程しかいませんし」
それよりも霧宮さんの前で、その質問はやめてほしい…。彼女が好きとか関係なく、同級生の女子(美少女)を前に聞かれたくないものだ。
まあ…聞かれた所で答えることはないのだけど。
「変なことを聞いて悪いね」
「いえ、新生活は誰だって気になりますよね」
「小さい頃から知っている風磨くんだからこそ、新生活のことが気になるものもあるけどね」
山神さんは微笑するとお茶を一口飲んだ。
それにしても気になるのは霧宮さんだ。部屋に上がってから一回も口を開いていない。
目の前にいる彼女は、教室で見掛ける明るい彼女とは違い、少し雰囲気が暗いように見える。
(山神さんの話と何か関係があるのか?)
最初の疑問に関連しているのでは…と思った所で、ガチャっと扉が開く音がした。
「お待たせしました。 風磨が何か失礼なことはしませんでしたか?」
うふふ…と言いながら、母さんは俺の左側へと座ってきた。そして父さんはキッチンからビール缶二本とお茶を注いだコップを持ち、右側へと座った。
「さっ、山神さんビールをどうぞ」
「小さい頃から変わらず真面目な風磨くんですよ。 あっ、ビールありがとうございます」
山神さんは父さんからビール缶を受け取った。
「真面目過ぎた結果、高校生になっても女子に話し掛けるだけで人見知りをしている息子ですよ〜」
「っな!?」
は…恥ずかしいからやめてくれー!!!!
確かに女子だけに限らず、久しぶりに会った友人やお店の店員に話し掛ける時も人見知りは発揮するよ。それもこれも全部小学生時代の時のトラウマが原因であるんだよな…。辛いな。
とりあえず、話題を変えないとだな。
「それで山神さんから話があると母親から聞きましたけど…その内容とは?」
「もう折角盛り上がっていたのに、勝手に話題を変えるのはダメだよ? 話の順序が大事なんだから」
「そうだぞ。 ビールを飲んでいるのに、全然盛り上がる気配がないじゃないか」
「母さんは良いとしても、父さんは黙ってて」
「その言い方はなんだよ〜」
霧宮さんがクスッと笑った。
うぅ…恥ずかしい。
俺はお茶を手に取り、それを一気に飲み干し、山神さんの方に視線を向けた。
「それで———」
「ちゃんと話すから安心して。 とりあえず…」
山神さんは霧宮さんの方に視線を向けた。
「飛鳥ちゃん、全て話してもいいんだよね?」
「はい。 私が望んだことですから、山神さんは気にせずにお話してください」
「分かった」
山神さんは再び俺と両親の方に向き直した。
「まず風磨くんが疑問に思っているのは、飛鳥ちゃんと一緒にいることだよね?」
「はい。 山神さんと霧宮さんの接点が一つも見つからないので…ずっと気になっていました」
「その答えを簡単に答えると、飛鳥ちゃんの父親と僕は昔からの友人同士だったんだよ」
確かに友人同士なら一緒にいてもおかしくないけど、霧宮さん一人なのが気になるところ。それに“だった“と過去形なのも気になる。
「だった…? それだと過去形ですよね?」
「数週間前に撮影中の不慮の事故で…ね」
「その…知らなかったとはいえ、催促をするような質問をしてしまいすみませんでした」
少し考えれば思い付くようなことじゃないか。これで霧宮さんに嫌われて、有ること無いことを学園で言われたら、俺の高校生活は終わりだ。まあ、彼女はそんなことをしないと分かっているんだけど……失敗したな。
「どっちにしろ、この話をしないと本来の話が出来なかったから気にしないでほしい」
「私自身も気にしていないので、そんなに落ち込まなくてもいいですよ」
「良かったわね。 風磨の失敗を二人は無かったことにしてくれたわよ」
「色々と複雑だ…」
それでも一言言わないといけない言葉がある。
「この度は、心よりお悔やみ申し上げます」
「ありがとうございます」
「ありがとうね」
「あら、風磨がまともなことを言っているわ」
母さん、少し静かにしてほしいかな。
それだと家では不真面目にしていると言っているようなものじゃん。間違ってはいないけど、霧宮さんの前ではほんとやめてくれ。
(てか、この数分で何回恥ずかしい思いをしているんだろう)
そう考えると少し顔が熱くなるのを感じた。
山神さんは「それで」と言葉を続けた。
「葬儀を終わらせた後、誰が飛鳥ちゃんを引き取るかの問題になって、色々と親族争いがあってね」
親族争い…か。よく聞く話だな。
「最終的に僕が引き取ることになったんだよね」
なるほど。
山神さんが引き取ることになっ……
「引き取った?!」
「もう風磨ったら驚き過ぎだよ〜」
「逆に母さんや父さんが驚いていないことが不思議なんだけど?! もしかして———」
「そのまさかよ! 私とお父さんはここに来るまでの間に話は聞いていたのよ。 ねっ、お父さん!」
「そうだぞ〜」
父さん、酔っ払うの早すぎだろ…。
「とりあえず、ここから先の話は親同士の話し合いになるから、風磨は飛鳥ちゃんと風磨の部屋で呼ぶまで待っていなさい」
「突然だな?! それと何で俺の部屋に通さないといけないんだよ。 部屋の片付けはしていないのに」
「あら、私はちゃんと部屋の掃除をしてとメールで伝えてあげたじゃない?」
確かにメールで『部屋を綺麗にして』とは伝えていたけど、それだとリビングだけだと思うじゃん。
それならリビングと風磨の部屋の掃除って感じに書いて欲しかった。
後悔しても遅いので、俺は霧宮さんの方に視線を向けて聞いてみることにした。
「霧宮さんはリビングの方がいいよね?」
霧宮さんは優しい笑みを浮かべてきた。
「案内をお願いしますね」
嘘だろ……。俺の部屋に霧宮さんが来るだと。
それは学園の男子なら誰もが憧れることだとは思うんだけど……部屋が片付いていないんだよな。
優柔不断の俺に母さんが背中を叩いてきた。
「もう諦めて早く部屋に移動しなさい」
「そうは言っても…」
「部屋が片付いていなくても、飛鳥ちゃんは平気かしら?」
「問題はありませんよ。 私の父も部屋を片付けられない人だったので」
「ほら、問題ないって言っているんだから、これを持って部屋に行きなさい」
と、母さんからお菓子と紅茶とカップをお盆で渡された。いつの間に用意したんだよ。
「無理矢理過ぎるだろ」
「さて、柳木くん。 お部屋に行きましょうか」
霧宮さんは既に立ち上がり、部屋を移動する準備を終えていた。それを両親と山神さんが微笑ましい表情で見ていた。
(何で止めてくれないんだよ)
そんなことを思いながら、全てを諦めた俺は、霧宮さんを部屋に案内することにした。
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