第三章 ドワーフ篇

第35話 エロ魔法炸裂

 ルミエールは本当に地下組織ヤマダの首領だった。


 翌朝、小百合の運転する車に麗亜と加世子と美香が乗り込み、食料を貰い受けに行った。そのままダンジョンに食料を届ける予定だ。俺の憑依体は麗亜に憑くようにした。麗亜は了承済みだ。


 残った俺たちは、エルフ掃除に乗り出した。まずは首都ダブラのエルフだ。百人ほどがドワーフの監視業務を行っている。首都の一等地に大使館があり、そこを拠点にしているという。


「じゃあ、行くか」


 俺は絵梨花を連れて、大使館に乗り込んだ。受付で止められるかと思ったら、すんなりと中に通してくれた。ちなみに恭子はアナスタシアとルミエールの護衛として、ヤマダの隠れ家に残して来た。


 俺たちは大使館内の貴賓室に案内され、エルフの大使だというマグマという男が現れた。


「ようこそ。お待ちしておりました。マグマと申します。長老会の外交担当を務めております」


 エルフは見た目が若いものが多いが、マグマはおっさんだった。エルフらしくかなりダンディだ。恐らく千歳を超えるエルダーエルフであろう。


「待っていたのですか?」


 なんか強そうだったので、敬語で対応することにした。


「ええ、単刀直入にお話します。どうですか? ここら辺りで停戦と行きませんか?」


「停戦ですか」


「はい、ご要望には出来る限りお応えします」


「そういった話でしたら、私は転移者の代表ではないので、女王のヒミカとお話頂きたいのですが」


「それはそれで準備をしておりますが、私としましては、まずは桐木殿のご要望をお聞きできればと思っております」


 俺の名前を知っているとは油断ならない。しかし、どういうことだろうか。俺の方が御しやすいという判断か? あるいは俺の口から色々と情報を収集するのが目的か? 恐らくその両方だろう。


「そうですか。では、言うだけ言います。転移者の自由を邪魔しないこと。あなた方エルフが、ドワーフ国、王国の支配をやめること、の二つです」


「分かりました。私の一存では決められませんので、長老会で検討したうえで、ご回答します。長老会というのはエルフの最高執行機関でございます。ただ、いくつかよろしいでしょうか?」


「どうぞ」


「転移者の方々の自由を阻害しようとしたことは認めます。こちらについては、前向きに検討できます。しかしながら、ドワーフや人間の支配については、移転者の方々には無関係ではないでしょうか」


「我々をダンジョンから解放するために多大なる協力をしてくれた友ですから。彼らの望みをかなえてあげたいのです」


「ドワーフについては理解出来ますが、人間の方は我々の支配をむしろ歓迎しているのではないですか?」


「そんなに馬鹿ではないですよ、人間は。いずれにしろ、私はあなた方の回答を待つつもりはありません。これからドワーフ国にいるエルフを排除します。停戦の申し入れはヒミカにして下さい」


「なっ、話し合うつもりはないのですか!?」


「ええ、少なくとも私にはないです。ただ、検討はして下さい。あなたはその検討を行う長老の一人ということで、このまま逃して差し上げます。どうぞ、お逃げ下さい。5秒後に攻撃開始しますよ」


「何だとっ」


 マグマは少しだけ逡巡したが、退却することに決めたようだ。転移したようで、マグマの姿が消えた。


 俺と絵梨花は貴賓室を出て、適当に館内を歩いた。途中でドワーフの職員をつかまえて、エルフがどこにいるかを確認すると、二階と三階がエルフ専用フロアとのことだった。


「二階でレッドシールドするのが効果的だと思うが……」


「うん、……いいよ」


 二階の応接室で俺たちはレッドシールドを張った。俺が腰を動かすたびにシールドの温度がどんどん上がって行く。建物の至る所が発火し、溶け始め、灼熱地獄となった。


 俺が果てたとき、大使館の二階と三階は、俺たちのいる応接室の一部を除いて、完全に跡形もなく焼失していた。


「ふう、二回戦は必要ないようだな」


「ばか……」


 応接室での共同作業は、絵梨花の羞恥心をかなり刺激したようだ。死神の俺の女子高生インポも、絵梨花のこの表情を見れば、きっと治るに違いない。


(やはり女子は恥ずかしがってなんぼだな)


 俺の中のオヤジが囁いた。


「さて、何人仕留めたかな?」


「六十九人みたい。レベルが55になっちゃった」


 エルフは体内に魔石を保持しているため、倒すと魔石ポイントが手に入る。ポイントは転移者の半分で、転移者のように肉体が消えたりはしない。


「そういえば、絵梨花はまた一段と美しくなったな。顔がいつにも増して小さく見えるぞ」


「ふふ、ありがと。レベル55は小顔効果があるみたい」


 美の化身といえばカナだが、絵梨花はそれ以上かもしれない。


「みんな、どんどん綺麗になって行くな」


「女の子だからね。でも、桐木くんも格好良くなってるよ。その、上手だしね」


 生まれて初めて夜の技を褒められた。努力は報われる。ますます精進しよう。


「もっともっと努力するよ」


「あのね、私も毎日お願いしたいなって……」


「了解した」


***


 エルフの長老会議がようやく開催されていた。


「大使館に詰めていた警官六十九名が最初に殺された。その後はダブラを警邏中の警官が一組ずつ襲われ、遂にはダブラからエルフは一人もいなくなった。敵の戦力は圧倒的だ。要求を受け入れ、ドワーフ国から早急に撤退すべきだ」


 外交担当のマグマは繰り返し桐木からの要求を受け入れることを主張していた。


「ただ単に相手の要求をのむだけの交渉を外交というのかしら?」


 情報担当のマリネから皮肉めいた非難を受け、マグマは反論する。


「人間やドワーフの立場に、今、我々は置かれているのだ。圧倒的な力の前には屈するしかないだろう」


「私たちが人間を支配するとき、簡単に支配できたかしら?」


 人間はありとあらゆる手段で支配から逃れようとした。一番手を焼いたのは、人間によるエルフ内部の分裂工作だ。エルフ内の敵対関係をうまく利用して、エルフ同士をお互いに戦わせるようにしたのだ。


「なるほど。マリネ、敵には敵を当てがうということか」


 議長を務めていた行政担当のアクタが、未だ美貌の衰えないマリネに目を向けた。


「そうよ。桐木は感情がなく、籠絡は困難と情報部は判断したわ。狙いはダンジョンにいるヨシムネよ。女好きな彼なら、桐木には反感を持っているはずよ。彼に接触して、地上に出ている転移者を全員葬らせるように仕向けるのよ」


「見返りは?」


 司法担当のコイルも興味を持ったようだ。


「ドワーフとエルフのハーフの女の永久支給よ。ヨシムネの好みに合うわ」


「人間の女はヨシムネの呪縛を解除してしまうから不味いというのは分かるが、なぜドワーフの純粋種ではダメなのだ?」


 コイルには理由が分からなかった。


「我らエルフの血が入らないと、十分に美しくないからよ」


 性欲が乏しいエルフには、このあたりはピンと来ない。大昔の数年間だけの発情期の記憶だけが頼りだ。マリネも情報分析の結果を見て立案しているのであり、自身の色恋はすっかり忘れてしまっている。


「このままでは我らは桐木と彼の女にいいようにされてしまうわよ。マリネにまずは任せてはどうかしら。議長、採決を採ってみてはいかがかしら」


 これまで黙って聞いていた魔法担当のキリネが発言し、長老会の面々にわずかに緊張が走った。


「分かりました。マリネに任せるのに賛成の方は挙手をお願いします」


 全員一致でマリネが動くことに決まった。

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