第8話 ナビゲーター
―― ニセ山本の憑依視点
二班は紅一点の安田恭子以外は男子で、男子は武闘派のイケイケが揃っていた。
恭子は「後ろ姿美人」と男子から呼ばれていた。スタイルが良く、髪の毛が綺麗で、後ろから見ると極上の美人に見えるからだ。実は前も美人なのだが、性格がオヤジっぽく、「話さなければ」という条件付きだ。
俺とは小中高とずっと同じ学校で、恭子の一つ下の弟と一緒に、小学生まではよく遊んだが、中学生になってからは遊ばなくなってしまった。
弟の
(そういえば、泰輝とも高校卒業以来、会ってなかったな)
懐かしい恭子の姿は、今は視界に入って来ない。恭子は最後衛に残して、男子生徒たちは、攻撃は最大の防御とばかり、全員で入れ替わり立ち替わり、オーガを相手に戦っていたのだ。
ニセ山本は、どこで手に入れたのか、長い槍でオーガの足元を突いていた。
白兵戦の武器の主役は、剣ではなく槍だとどこかで読んだ記憶がある。他の男子も槍を手にして、オーガに間合いを詰めさせないようにしながら、少しずつオーガの機動力と体力を奪って行く戦い方をしていた。
たった二日かそこらで、ここまで連携して戦えるとは大したものだと感心した。
(ナビゲーターはどこだ?)
ナビゲーターの指導がいいのだろうと思って、探したのだが、ニセ山本の視界にはいないようだ。他の班でもそうだっだが、戦闘中はナビゲーターは後方で見ていることが多いので、この班もそうなのだろう。
オーガが息絶え絶えになり、逃走を試みたが、ニセ山本は、上手く回り込んで逃さないようにした。そのときだった。
後方から地響きが聞こえて来た。ナビゲーターが仲間の後方で叫んでいるのが聞こえた。
「逃げて下さい! トロールです。全員、早くこっちに逃げて来てっ」
ニセ山本は仲間たちの視線が自分の後方に集まっていることに気づき、後ろを振り返った。
(何だ、あれは!?)
地下一階の最強種がトロールであることは後で知るのだが、そのトロールが、二班の戦闘中に強襲して来た。トロールは知能が低く凶暴で、身長三メートルの巨大な体躯にもかかわらず俊敏に動き、しかも、肉体には再生能力がある。
(まずい、山本の足が恐怖ですくんでしまっている)
『こらっ、山本、走れっ、逃げるんだよっ』
ニセ山本が俺の荘厳の声に反応し、転びそうになりながらも、トロールを背にして走り出した。
しかし、すぐにニセ山本は背中に強烈な何かを食らい、地面に思いっきり叩きつけられ、そのまま意識を失った。ニセ山本の半分開いた目から血まみれの地面が見え、先の方に逃げて行く仲間たちの背中が見えた。
次の瞬間、目の前に突然白いパンツに黒ブーツの足が二本見えた。恐らくナビゲーターだ。助けに来たと思ったら、「デス」と呪文をかけられ、ニセ山本は死んでしまった。
―― 俺は次に山本兄に憑依した。山本兄は弟のニセ山本が気になって、何度も後ろを振り向きながら走っている。ナビゲーターがトロールの攻撃を避けながら、ニセ山本の遺体を回収しているのが見えた。
(遺体が消えた?)
これも後で知ることになるが、「格納」というスキルだ。
獲物を横取りされたトロールは、怒りの咆哮をあげ、ナビゲーターに対して執拗に攻撃を繰り出しているが、ナビゲーターはひらりひらりと攻撃をかわし、こっちに向かって、猛スピードで走り出した。
(そのでっかいのが、こっちに来るだろうがっ)
案の定、トロールが、ナビゲーターを猛然と追いかけて来る。ナビゲーターが山本兄を追い越した。
(どれだけ速いんだ、この少女。まずい、追いつかれるっ)
山本兄は弟と同じように地面に叩きつけられ、意識を失った。俺の憑依先は目まぐるしく変わり、男たちの恐怖、死の間際の両親への叫び、そして、この地で果てる無念さを散々味わった。
―― 俺は最後に恭子に憑依した。恭子は最後衛ですぐに戦いから離脱しており、近くの建物に隠れていた。
そこにナビゲーターが現れた。またしても、カナと全く同じ容姿だった。
「安田様、遺体を回収して参りました。あなたにお渡しします」
突然目の前に五人の男子生徒の遺体がどさりと積み上げられた。すぐに遺体は消えていき、五個の魔石が床に転がった。
(恭子、すげえな。全く動じないじゃないか)
<<五人分の魔石60000ポイントを取得しました。レベルが11に上がりました。「輸血」の医術を覚えました>>
氏名 安田恭子
拳法、柔術、盗賊技
(……ブラックジャックか? 魔法ではなく医術だな)
ナビゲーターが魔石を拾い上げた。
「二班の全滅だけは避けねばなりませんが、一人ではこの先、生き残ることは難しいです。どこかの班と同盟を結びましょう」
「同盟?」
懐かしい。恭子の声だ。
「はい。他の班と協力して魔石を収集することは禁じられてはおりません。一班がお勧めですが、どの班に同盟を持ち掛けますか?」
「じゃあ、一班で」
「かしこまりました。一班の位置を探索します」
(まずい。このままだと恭子は死ぬ)
『恭子、一班ではなく、五班にしろ』
「え?」
『俺だ。桐木だ。ナビゲーターに知られないように心の中で念じてくれ。俺の声はナビゲーターには聞こえない』
(お、おう、これでいいか?)
『その感じでいい。一班ではなく、俺たちと協力しないか? 五班に来いよ』
(……、よし、分かった)
恭子の中で戸惑いの感情が湧き上がるが、俺と小さい頃に遊んだ思い出が甦り、最終的には信じてみようと思ってくれたようだ。
「ナビゲーター、やはり五班で頼む」
「五班ですか? かしこまりました。それでは、五班を探索します」
『恭子、上出来だ。では、また会おう』
うまくいったようで、恭子への臨終憑依は解消された。俺はいったん自分の体に戻った。
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