女戦士、放浪の薬師を拾う~聖女の神託を受けた少女はどこに?~

星羽昴

第1話 女戦士マグナオーン

「うぁああああ、マジでヤバそう・・・」

 全身から脂汗が吹き出しているのに、寒気がしてガクガクと震えが止まらない。口入れたモノは全て吐き出したはずなのに、まだ吐き気が続いてる。

 女戦士マグナオーンは、こんな森の中で迷子になったあげくに終わるのか?

 東方の故国に知らせがいったら、一族もろともに笑い者になりかねない。せめて、戦場で死にたかった。

「・・・大丈夫ですか?」

 誰かの声が聞こえた気がする。

 口の中に何かを詰め込まれて、喉の奥に流し込まれた。

 何しやがる!・・・と言おうとしたが、力が入らない。意識が遠のく・・・。


 眩しい光で目が覚めた。

「朝?・・・あれ、生きてる?」

 木で組んだ山小屋のようなところだ。枕元には、わたしの荷物が置かれていた。中身を確認してみたら、仕事の報酬で貰った金貨はそのままだった。

 立ち上がって小屋を出てみると、すぐ目の前に泉があった。

「もう、動けるんですか?」

 声の方を振り返ると、若い男がいた。二十代前半、もっと若くて十代かも知れない。わたしより年下は間違いない。

「もしかして、助けてくれたのはお前か?」

 男は手に抱えていた薪を地面に並べて火をおこす。泉の水を湧かす。

 男の名前はイリヤ。修行中の薬師で、この森で使えそうな薬草を探していたそうだ。森で苦しんでるわたしを見つけて、手持ちの薬を飲ませてくれた。その後、気を失ったわたしをあの小屋まで運んで寝床を枯れ葉で作ってくれたと言う。

「ゆっくりよく噛んで、お湯を飲みながら食べて下さい。がっつくと嘔吐しちゃうかも知れませんから」

「この森深くで食べ物までくれちゃって、あんた大丈夫かよ?」

「え?ここは森の入り口に近いですよ」

「ええ?」

 わたしが寝かされていた小屋は木樵小屋で、木樵達が共同で利用してるものだそう。

「無断で使わせて貰っちゃった訳ですから、バレないようにきれいにして行きましょう」

 小屋をかるく掃除してから、あたしはイリヤに案内されて町に繋がる大通りに戻ることができた。


「バーダル市のクロイツ家令嬢クレア様が、このウィザルタル市の領主様の許へ嫁いできただろう。わたしはクロイツ家の依頼でクレア様の護衛を依頼されてたんだよ。

 クレア様を送り届けて仕事完了したんで、バーダルへ戻るのに近道しようとしたら道に迷っちまってさ。腹が減って、美味そうな実があったんで食べたら、あの様だ」

 どうやら森の中でグルグル同じ所を回っていたようで、結局森の入り口でぶっ倒れていた訳だ。

 イリヤは西方の田舎町で家業の薬師を継ぐために修行してる身だと自己紹介した。

「わたしはマグナオーン、改めてよろしくな」

 握手のつもりで右手を差し出すと、イリヤは握手に応じずあたしの顔をまじまじと覗き込んできた。

「あなたは、この町の方ではないんですね」

「あ?うん、そうだな。生まれたのはずっと東方の国で、傭兵としてこっちへ来たんだよ。今は婿さがしを兼ねて自由気ままに旅をしながら護衛とかしながら食いつないでる」

 イリアは一瞬気まずそうな顔をする。

「あ、別にお前をどうこうしねえよ。わたしの婿ってのは、故郷で一族の長になって貰わないといけないんだ。強い男でなきゃな。生っ白いのは相手にしないよ」

 安心させるつもりで言い訳したが、的外れだったようだ。イリヤは唇を歪めたまま、何か言いたそうにしてる。

 考えてみれば町のすぐ近くなのに、わざわざ森の木樵小屋で夜を過ごしていた。と言うことは、町に入れない理由があるんだろう。

 この町の住人以外の誰かに助けを求めたい・・・それが言い出せないのだろうと思った。

「命の恩人には借りを返さないとならないよな。東方の女戦士は不義理なことはしないぜ」

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