第43話 初めてが怖い子

 衣装を身に付け終えると、今度はメイク、そしてウィッグの装着だ。

 幸田もドーランを塗るのを手伝っている。

「何か、美術の授業みたいでオモシロイね」

 幸田は完全に面白がりながら、ドーランを塗った智紀の顔をペタペタと叩く。そんな様子も米村は撮っているらしく、ずっとシャッター音が響いている。

 祥太の方は、慣れている茉莉花が素早く作業したので、すぐに完成になったようだ。


「……誰っ!?」

 智紀は思わず、完成した祥太を見て言った。

 眉毛やアイラインだけでなく、濃く入ったノーズシャドウや、不自然なほどの大きな黒目で、完全に別人である。

 智紀は祥太に近づいて、じっと顔を見つめた。

「目、どうなってんの?怖い」

「コンタクトだそうだ。黒目を大きくするらしい」

「え、これ俺もつけるの?」

「そうだよー。やっぱつけないと二次元感が出ないんだよねー」

 茉莉花が楽しそうにコンタクトを手にしている。

 米村も、ダルそうに写真を確認しながら言った。

「面白かったぜ。なんか、変装の過程みてーでさ。見るか?」

「見たいかも」

「あーとーでっ!先に弟くんもやるよ」

 そう言われながら、ドーランだけの智紀も茉莉花に引きづられていった。


「ね?結構原型無くなるもんでしょ。あれだとバレないでしょ」

 茉莉花が智紀にウインクするように言った。

「あ、コスプレ写真売るってやつの件」

「売るんじゃない、頒布だってば」

 智紀には違いがわからないけど、色々あるんだろう。

 確かに、祥太のあの原型のない姿を見たら、ちょっと安心する。

「はい、何かあれなら仮面と同じですね」

「えー、そこまでかなあ。ま、弟ちゃんが安心してくれたならいいや。はい、まずはコンタクトつけて」

 茉莉花が黒目を大きくするというコンタクトを智紀に渡す。

 智紀にはそれを受け取ると、少し戸惑う。

「えっと、俺コンタクトつけたことなくて」

「ん、手を洗ってきて、これ、指で目にいれるだけ」

「指で……」

「え、まさか怖いの?」

「うっ……」

 怖い、とは言いづらいが、抵抗はある。

「指で?えっと……どうやっても目つぶっちゃうんじゃ……」

「ちゃんと瞼押さえて。やってあげる」

「待って、待って!ちょっと絶対痛いよね!?」

「痛くないよ全然。目が悪い人はデイリーでやってる行為だし」

「待って待って、本当に。無理矢理にしないでって!」

「もぉ!ちょっと、保護者!弟ちゃん励ましてあげて!」

 たかだかコンタクトに怯える智紀にしびれを切らして、茉莉花は祥太を呼ぶ。


 呼ばれた祥太は智紀に近寄ると、グイッと顔を押さえた。

「ひっ!」

 智紀が抵抗する間もなく、祥太は智紀の目をさっとこじ開けて、あっさりとコンタクトを一つ装着させてしまった。

「痛いか」

「い、たくない、です……」

「なら、もう一つは自分で出来るな」

「はい……」

 祥太に言われて、智紀は大人しくもう片方のコンタクトにチャレンジし始めた。

「さすが……手慣れてる」

 茉莉花が感心したように唸ると、祥太はフッと笑った。

「あいつは初めてのものが怖いだけだから。だから初めてをちょっと無理やりさせさえすれば出来る子なんだ。子供の頃からそうだからな。大型犬、自転車、木登り、ワサビ……」

「やだ、竹中くん可愛い」

「ちょっと兄貴、余計な事言うなよ!」

 智紀は真っ赤になった。

 コンタクトはなんとか入ったようだ。


 そうして、コンタクトさえクリアできればあとは茉莉花にされるがまま。智紀も祥太と同じ厚化粧を完全させられ、最後にカポッとウイッグを被せられた。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る